今年最初のドルメロプロジェクト、始動
JRAの育成により実際に仕上がった2歳馬を取引するJRAブリーズアップセール2023が25日、開催された。ドルメロの元にもお二人の馬主さんから調査依頼が届いており、今年初めてチャレンジすることとなったセールの模様を、関係者に配慮し一部フィクションを混じえながらお届けする。
ブリーズアップセールの特徴
セール表向きのうたい文句は「JRAがじっくり育成した、仕上がりそうな2歳馬を、広く多くの馬主さんの元にお手頃価格で届けたいセール」ということになっている。ただ海外のトレーニングセールに比べるとやや「新興馬主さん、いらっしゃ〜い」の趣向の方が強く、即戦力を届けるという意味合いはその次くらいかな、という感がしている。
しかし昨年は芝の重賞勝ち馬を輩出するなど、過去のセール活躍馬を見ればワンチャン大きな夢もありそうなラインナップが揃う。開会の挨拶では昨年きっちり11頭が勝ち上がったことを強調していたし、ドルメロ自身の調査によれば、たとえ未勝利馬であっても年間通じてきちんと数を使えた馬や、その後地方で勝ち上がった馬もいるので、確実な馬購入の入口としてはありのセールかもしれない。
そしてブリーズアップセールもうひとつの特徴、それが「一度1歳馬セールを通過した馬の集まり」という点だ。JRAのホームブレッドは除くが、後の全馬は昨年どこかの1歳馬セールでJRA自身が買ってきた馬なのだ。この点を前提として把握しておけば、実はブリーズアップセール独特の「必勝法」が浮かんでくる。
ブリーズアップセール必勝法
①出身セールとブリーズアップセールとの価格差をみる
たとえば昨年のサマーセールで同じ1000万円で買われた馬AとBがいるとしよう。もしAが今回のブリーズアップセールで500万円で落札されたとすれば、これはちょっと不安材料になる。反対にBが2000万円で落札されたら、これは今の時点で相当期待してもよい。
ブリーズアップセールでは基本、各馬の「成長度合い」を見るべきなのだ。昨夏の時点で1000万円の成長度だったものが、半年以上経ってそれ以上の価値と認められて初めて優秀な競走馬である。つまり価格が出身セールより下がるAの価格は通常あり得ない話であり、それは決してバーゲン状態ではない。
とはいえ実際はこちらで価格を操作することは出来ないので、慎重を期すなら出身セールの価格をきちんと超えてからセリに参加してもいいくらい。当日のお題が意図的に下げられて上場される馬の活躍はまず見込めない。
②速い調教タイムは価格の高騰を生むだけ
これは少し意外に感じられるかもしれないが、前日の調教タイムとその後の活躍ぶりには、さほどの連動性はない。もちろんタイムが速い方が見栄えはいいし、人気にはなる。しかしこのセール中ダートのしまい1Fで12秒を切ってくる馬はざらであり、またそれがダート血統か芝血統かによっても価値は違うし、この調教日にピークを持ってくることがのちに弊害をうむ可能性さえある。
ではこの調教タイム、セールに何をもたらすのかというと、ずばり価格面の高騰である。まず前日の時点で好タイムにより注目馬がセレクトされる。いったい誰にセレクトされる? 馬主さん?ファン? ちがいますよ、そうマスコミにセレクトされるのだ。マスコミはタイムを簡単な能力指標だと思っているからね。
そして翌日午前のパドックが大人気となり「あの馬は誰が落とすんだ」の雰囲気が醸し出され、有力馬主さんがこれに乗っかっていきやすいという図式ができあがる。もちろんタイム=能力の馬だっているだろう。しかしタイムと勝ち上がりの相関関係が薄いことなど、毎年データをとればわかること。そればかりか昨年勝ち上がった馬の中には、前日「18.5ー16.8」というほぼ歩き調教でやり過ごした馬さえいるのだ。
まあこの馬、実はお母さんの真のMAX活性産駒だったんだけどね。
③まずは芝馬に注目せよ
将来的にずっと芝を走るかどうかはさておき、ブリーズアップセールで狙うべきは、断然芝馬である。それは過去の活躍馬、上級馬成績が示すとおりで、夢を買うなら芝適性が強そうな馬を狙うのがよい。
昨年の成績ではダートの勝ち上がり率が高いものの、それには個別の馬のスピードが足りるか足りないかの問題もある。JRAのホームブレッドは毎年芝配合、芝種牡馬の導入に寄せてきているし、またそういう観点だから、セリでもできるかぎり芝馬を狙っているのだろう。
あまりに欧州芝よりだと現代トレンドに反するので困るが、JRAのセレクトはその辺すごくいいところを突いている気がするので、現状は何も心配していない。
お二人の馬主さん、それぞれ1頭ずつゲット!
今回ご依頼いただいた馬主さん、仮にXさんとYさんとしておくが、Xさんは持ち馬多数のベテランさん、Yさんは新興馬主さんに該当する。それぞれの馬入手スタンスもかなり違い、Xさんはご自分の相馬眼をきっちり持っている方、Yさんは今年セールから少しずつ庭先取引に移行しようとしている最中。だから私とお二人の付き合い方もかなり異なる。
Xさんからはご自分でセレクトした候補馬2頭の調査依頼が届き、Yさんからはリーズナブルな価格帯という条件で「ドルメロおまかせ」の全体オーダーがやってくる。そしてXさんが今年馬体で選んだ2頭のうちの1頭、それが調教でセール史上最速の1F10.7秒で駆け抜けた44番スルージエアーの21だった。
私も当日の調教をライブで見ていたのだが、44番の走りにはビックリして開いた口が塞がらず。あらためてXさんの相馬眼に感服するとともに「Xさん、どうするんだろうなぁ…高くなるのは間違いないけど」と思わずいらぬ心配を。ドルメロとしては44番に満点は挙げられなかったけれど、ダート馬としてならいいんじゃないですかという結論をお伝えしていた。しかしなあ…調教と出世はリンクしないと自分で言っておきながら「もしこの仔が全日本2歳優駿を勝ったらどうするんだ?」みたいな恐怖心も芽生える始末で…。
しかし結果的にXさんは44番のセリに参加されなかった。セール後のメールでは「一番時計が出た時点で、買わないことに決めてたよ」ということらしく、この辺はさすがに落ち着いたもの。セールではもう1頭ご自分で目を付けた方の馬を悠々落とすことができ、ご満悦の様子だった。この馬は私からも高評価を出させていただいた。「あんまり嬉しくて、つい番号を提示するのを忘れちゃった」とお茶目なご報告までいただいたので、セールとしてはまずまず成功だろう。
いっぽう「おまかせ」オーダーでセリに臨んだYさん。私からは1頭の本命馬と馬体次第で注目したい4頭の候補をお出ししたが、そのうち注目馬の1頭が12番ピンクシャンパンの21で、メスだというのに早々2700万円まで高騰し残念無念。しかしこれは正味いい馬だと思う。
そのあとなんとかこちらも本命馬にチャレンジし、会場の方とオンラインでがっぷり四つで一騎打ち状態になり、かなり頑張った末に落とすことが出来た。これには正直、ヒヤヒヤした。セール後のメールでは「思わず、熱くなってしまいました」とのこと。しかし思ったよりリーズナブルだったし、私の一番の注目馬でもあったので、オーナーの元にお届けできてひと安心だ。間違いなく芝馬だがダート調教の動きも俊敏で、少し条件は選ぶものの、活躍の場が多そうな馬だと思う。
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ブリーズアップセールは、日本に数ある中でも異なる傾向をもつセールだ。2歳即戦力とか、JRAのお墨付きとかいうレッテルに惑わされず、一度1歳馬セールを通過した馬たちの集まりという事実から、その成長力を判断するセールだということを忘れずに、来年以降もデータ重視で取り組んでいただきたい。