馬産が国家的プロジェクトだった時代に海を渡った母馬たち
突然ですがみなさんは「ビユーチフルドリーマー」という馬を知っていますか?
拗音のはずの「ビュ」が大きな「ビユ」と表記されているとおり、昔々はるか英国から日本に来た1頭の牝馬の名前です。
もしこの牝馬の名前を知っているという方がいたら、おそらく血統にかなり見識のある方だと思いますが、では現在もこの牝馬の流れをくむ活躍馬を挙げられるかといったら、それはちょっと聞く方がイジワルだということになるでしょう。
実はこのビユーチフルドリーマー、日本の競馬界に多大な影響を与えた繁殖牝馬なのですが、彼女の何がすごいのか、そしてなぜ彼女のチカラがこれほど後世に強く残る結果となったのか、今日はその辺のお話を新しい知見とともにお伝えしていきます。
その価値、ざっと60億!
ビユーチフルドリーマーが日本に来たのは1907(明治40)年(その翌年とも)で、その目的はもちろん繁殖牝馬として輸入されたものです。
ビユーチフルドリーマーは1903(明治36)年英国生まれの栗毛馬。
父エンスージアスト、母レポソ、母父アンフィオンという栗毛一家の娘で、もとはある英国の名門牧場に繋養されていました。
ところがその後牧場が運悪く破産。
その情報をいち早くキャッチした三菱財閥(これがすごい)の小岩井農場が、ビユーチフルドリーマーら20頭の繁殖牝馬を一手に買い付け日本に輸入するという一大プロジェクトによって、彼女たちは日本の地を踏むことになります。
まだこの時代、日本の馬産は「軍馬生産」という色合いが強く、強い馬を作るとはすなわち強い軍馬を作るという意味でした。
そこで産地の見識ある方たちが「馬のためなら金は惜しまない」とばかりに、競って諸外国から優秀な血の導入を進めようとしていた矢先の出来事だったのです。
ちなみに彼女たちのお値段はといえば、
ビユーチフルドリーマー 6000円
キーンドラー 6000円
フロリースカツプ 5500円
アストニシメント 5500円
プロポンチス 5000円
え?いくら破産牧場出身でもちょっと安く叩きすぎですって?
違うんです、当時の100円(圓)は現在の1億円にも相当する価値があり、つまりビユーチフルドリーマーは今の価格にして約60億円というとてつもない高額で導入された牝馬だったのです。
それでは逆に英国側がふっかけたのでは?という疑問が湧いてきますが、当時の欧州は自国の血脈が外国に流出することにとても神経質で、そう簡単に繁殖を手放すことがありませんでした。
馬産活性が日本の国家プロジェクトであったこと、正式なルートでは絶対入手不可能だったのに牧場破産という想定外が起きたこと、それをキャッチした三菱財閥のアンテナのスゴさ、それらが複雑に絡み合っての奇跡的な導入成功例だったわけです。
牝系が連続して活躍できる要素を探してみた
さて今日の本題はここから。
ビユーチフルドリーマー系はその産駒から何本もの系統に枝分かれして繁栄していますが、その中の1本に「種義(たねよし)」という牝馬から伸びる系統があります。
種義から先は
雪義(ゆきよし)
マイラブ
ミスミドリ
クインエポロ
ホクエイリボン
ときてその次が
エルプス
になります。
エルプスは85年の桜花賞を制した牝馬でしたが、繁殖としては目立った産駒を出すことができず、また仔出しもあまり良くなかったため結局残した牝馬はわずかに2頭。
その中の1頭がリヴァーガールで、彼女も中央で1勝止まりの何ということのない牝馬でしたが、その2番仔があの名馬・テイエムオーシャンになります。
テイエムオーシャンは牝馬クラシックの桜花賞と秋華賞を制し、オークスは3着。
古馬になってからも混合のスーパーG2札幌記念を制するなど牡馬顔負けの活躍ぶりで、これに当時ヴィクトリアマイルがあったらもっと勝っていたかも、と思うほどの名牝です。
さてエルプスもテイエムオーシャンもともに桜花賞馬ですが、実はこれまで日本競馬において、桜花賞の母娘制覇は一度もありません(毎年話題にはなるけど)。
ですからそれに最も近い形の祖母孫制覇がこのエルプス&Tオーシャンであり、血統の母系を見るスタイルの私にとっては小岩井牝系という以上に「この牝馬たちのOK判定が代々どうなっているのか」の方がとても興味をそそられるポイントなのです。
ビユーチフルドリーマー系を正当に継承する超絶困難さ
ではその血の継承ぶりをとくとご覧ください。
ビユーチフルドリーマー 1903
種義 12.3.30 3.13〜5.13
雪義 31.4.5 き○ 3.19〜5.19
マイラブ 46.3.31 き○ 3.14〜5.14
★ミスミドリ 55.3.8 き○ 2.22〜4.22
★クインエポロ 64.6.6 き○ 5.20〜7.20
★ホクエイリボン 73.5.28 き○ 5.9〜7.9
★エルプス 82.5.3 き○ 4.17〜6.17
★リヴァーガール 91.3.14 き(○) 2.28〜4.28
テイエムオーシャン 98.4.9 き(○) 3.23〜5.23
ああ、なんということでしょう(劇的ビフォーアフター風)。
この前ビックリした豪のウィンクスなんて目じゃないほど、代々美しく整った100年の血の継承。
ポイントは次の2つ。
(1) 繁殖のスピードサイクルがこちらでなんら調整を加えなくても「き○」で6代にわたって正しく継承
(2) マイラブからエルプスまでの5代が連続して「★MAX活性」を継承
このことから、
▼エルプスの基礎体力値は本邦初の100!
▼テイエムオーシャンでさえも脅威の94
▼2頭はスピードの強調もすさまじい
MAX活性★は4代のうち2代もあれば、名馬の出る確率がグッと上がるとされています。
それが表中全部でMAX活性★ですから、どうりで3代で2頭の桜花賞馬が出る訳なんです。
私はこのビユーチフルドリーマー100年の歴史の中に「この血統理論と似た経験則」等を操る馬づくりの名人が必ずいらっしゃった(しかも複数人)のではないかと踏んでいます。
でなければ、すべて異なる馬の、8年ごとに訪れるMAX活性の年に、正しい発情期に種付けをし、母子ともに健康な出産を行わせるという、当たり前のようで超絶困難な営みが5代も6代も続くわけがないからです。
名牝系と呼ばれる血脈でも、末えいを導入し、ただ毎年種付けをすればポロッと名馬が生まれるなんてことはあり得ません。
いまやビユーチフルドリーマー系のような古い牝系だからこそ、管理されずに頭数ばかり増えるBAD判定の末えいが多すぎて、知らない人が「この仔は小岩井出身だ」なんて手を出せばたちまち牧場は傾きます。
ビユーチフルドリーマーと時を同じくして導入されたフロリースカツプ、アストニシメントも同様で、私のメモには彼女たちから広がる膨大な樹形図が描かれているものの、今でも産駒を買っていい繁殖牝馬の数はわずかに数頭のみ。
血が古くなるということはこういうことであり、やがてはこの活性メソッドも伝える者がいなくなり、血の更新といえば新たに外国の繁殖牝馬を買い付けるしか方法はなくなるのでしょう。
それを血の淘汰と呼ぶには、あまりに寂しい気がしますが…。
今回の記事内容は、先週の新馬戦に出走したテイエムハツユメの調査をした際に偶然気づいたもので、将来テイエムオーシャンの子どもたちから再び名馬が出ることを祈りながら、ペンを置くことにします。
▼今後の予定など
さて今後のブログの予定ですが、週中の記事はそろそろ
▼G1レーシングさんの1歳馬ご紹介
をせねばマズいということで、ボチボチ書いていきますが、秋のG1シリーズに関しては
▼血統分析が効果的と思われるレース
についてだけ、見解を述べていくつもりです。
よって毎週分析は行いません。
ただこれから行われる
▼海外競馬(メルボルンカップや暮れの香港など)
については、血統分析をお伝えすることで皆さんの参考になれば書くこともあると思います。
次にYouTubeの動画ですが、どんな形式の動画内容がいいか散々迷ったあげく
▼iPadのような画面に血統表を出し、そこに書き込みながら画面を録画する「授業形式」動画
ではどうかと思い始めています。
こちらは楽ちんな反面、毎回黒板の清書のようでまとまりが付かない危険もありそうですが、もとより当方は編集でどうにかする腕もありませんし、言いたいことが伝わればそれでよしという姿勢です。
そのため今あるiPadを今度出るという新製品(もしくは教育用の廉価版)に新調し、pencil(これもpencil2の噂あり)を用いながら試験運転してみる予定で、今度のApple発表会後に一式揃えていよいよ動き出します。
ただ音声はねぇ…主の声質が良くないから、これもMacの音声読み上げに頼るかもしれません。
主がしゃべった方が当然早いんですけどね。
最後になりましたが、皆さんにはいつもブログを読んでいただいて本当に感謝しています。
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なお通知機能はケースバイケースで動いたり動かなかったりらしいので、今後も導入しないと思います。