※これは3月24日YouTube動画の台本原稿です。
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こんにちは、ドルメロチャンネルです。
さて今回は、中京競馬場で行われるスプリントG1高松宮記念の展望をお届けいたします。
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現在日本に2つある芝のスプリントG1は、春と秋にそれぞれ分かれて行われていますが、順番はどちらでもいいけど、これを2つとも制覇するのは至難の業らしい。
最近では18年のファインニードル、その前はというと…もうロードカナロアになってしまう。
全然出ていませんよね。
それには昨今のスプリント界の地盤沈下らしき背景もあるのでしょうが、なぜこの2つのスプリントG1は互いにリンクしないのか。私はこの2つのレースの性格が互いに違いすぎるからだと思っています。
ハッキリ言うと、この2レースを勝つためには適性が180度異なる2頭の名馬を用意したいくらい。
無理ゲーに近いんですよね。
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では高松宮記念とスプリンターズSの何がそんなに違うのか。
まずは攻略のひとつめ、初速の話をしましょう。
ここでいう初速とは「レーススタート後1F目のラップ」のことです。
EQ指数チャレンジを毎週ご覧の方ならわかると思いますが、レースはこの初速によって性格がガラッと変わります。そして一番大切なのは
「1頭の競走馬が持っている最適の初速範囲、スイートスポットはかなり狭い」
という事実です。
たとえば初速12.8が最適の馬にとって初速12.0は速すぎてついて行けないし、反対に初速12.0が最適の馬にとって初速12.8はいかにも遅すぎて折り合えない。
さらにいうと初速12.8でも12.4でも好走できる中距離馬というのもほとんどいないし、初速12.0でも12.4でも好走できるマイラーというのもほとんどいない。
競走馬は必ずどこかに、0.1秒単位の狭さで、最も得意な初速というものを持っています。
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また距離千二と千四の間には、お互い絶対歩み寄れない初速ギャップとでもいうべき深い谷があります。これがいつも私を悩ませているのですが、
たとえば距離マイル、また千四の重賞には、初速12.0と12.4という両方のレースが存在します。
しかし距離千二のスプリント戦、とくにオープンクラスでは、初速12.0は存在しますが初速12.4のレースはまず存在しません。初速12.4の6F戦とはもう新馬並みの緩さなんです。
ですから距離千四のとき初速12.4で始まったレースの指数は、どうやって千二に換算しても参考にならない数値なんです。千二にはあり得ない初速なんですから。
距離千四というレースは非常に面白い条件でして、ときにスプリント戦の顔を見せたかと思うと、ときにマイルより遅いレースに早変わりしたりする。
千四は基本的にはマイル戦の指数を重視すべきと思いますが、たまに箸にも棒にもかからない大外れがあるのは、そういうことなんですよね。
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そして春の中京開催が荒れてくるもうひとつの要因、それが天候と馬場の変化です。
とくにここ4、5年の高松宮記念はひどい馬場状態で行われているため、このG1では本当にスプリント能力が発揮されているのかな、という疑問が浮上するほど。
今年も週中の木曜と金曜があいにくの雨予報となっていますし、先週の結果を見ても中京の芝コース全体が少しずつ時計がかかる状態に変わっていますので、日曜は稍重スタートも十分考えられます。
すると高松宮記念の初速が毎年どうなってくるかというと、
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実はあれだけ「ないない」と言っていたスローのスプリント戦というものが、物理的に、しかも強制的に現れます。これが高松宮記念の正体、本当の怖さです。
左の表は参考に持ってきた秋の中山スプリンターズSの初速なんですが、基本晴れの良馬場で行われるスプリンターズSは、初速が12秒台になることはまずありません。
ところが高松宮記念はというと、これが見事に毎年12秒台。
良馬場であっても初速12秒台になってしまう傾向を見ると、もはや予想は12秒台スタートを前提に考えていかないと的中にはたどり着かないと思われます。
そして気になるスプリンターズSとのリンク関係ですが、高松宮記念が初速12秒台で始まったとしても、その次の2F目のラップが10.3とかめちゃくちゃ速くなる年、こういう年はさすがにスプリンターズSの好走馬とリンクすることがあるようです。
これは毎年逃げ馬のペースを見ればわかるので、のちほど解説します。
さてこれだけ初速が遅くなるスプリント戦ですが、どうも何か別のレースの特徴に似ていますよね。
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そうなんです。遅い6F攻略2つめのファクターは、距離千四のペースだったんです。
初速12.5までくるとそれはもう距離千四の疑似レースなんです。
よく高松宮記念の好走には千四のレース経験があった方がいいと言う方がいますが、私もその意見自体には賛成です。
しかしそのほんとうの理由は、距離の経験値ではなく、この遅い初速に我慢できる経験値がほしいからなんです。
その証拠に高松宮記念過去の勝ち馬たちの千四経験を見ますと、勝ち馬全部に千四のレース経験があったものの、中には千四でひとつも勝っていない馬も含まれます。
経験値は必要だが、勝ち星は必要ではない。
言い換えれば高松宮記念の好走には千四における高いEQ指数は必要ない、千四特有の遅い指数を換算したくらいでは馬券の予想はできないこともわかります。
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そして遅い6F攻略3つめのファクターが、優先祖先です。
ここは毎年私も参考にしているところで、中京のパワーが必要な芝ではできれば欧州系の血を引くキンカメ、ロードカナロア系、または直接欧州のスプリンターにつながる系統、あるいは過去の高松宮記念勝ち馬なんかも祖先としては有望です。
参考までに秋の中山スプリンターズSと適性を比較すると、ひと目で高松宮記念組の血の重厚さ、欧州適性の高さが目に付きます。
またこれは前回の牝馬クロス動画でもお話ししましたが、一般にスプリンターの成功配合としては、
(1)父のゼロやミニマム期が使われている例のパターン
(2)父が優性の場合、素直にそのスプリンターの父を優先祖先とする配合
が多いですね。
日本ではむしろこの父優性パターンが今のスプリントトレンドでして、今後もロードカナロアやビッグアーサーの後継候補誕生が望めるわけです。
今後の生産界を考えるなら、父が優性のスプリンター種牡馬の方が話がわかりやすくて間違いのない配合になるのは確かですね。
(9)(5秒ジングル)
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さてここまで高松宮記念攻略のために前半遅く始まる6F戦の特徴をみてきましたが、それらをふまえていよいよ今年の出走馬たちの中から有望な候補を探していきましょう。
この表は今年の登録馬の優先祖先、適性、そして距離千四の経験の有無をまとめて、だいたい人気順に並べたものです。
このうち優先祖先に関しては、今回はビッグアーサーとファインニードルもいちおう本質的な血統傾向を加味して欧州の芝系に分類しています。
大まかな傾向としては、今年人気になりそうな馬たちの優先祖先はそれら欧州系が多いこと。
この時期特有の中京の馬場適性にマッチする馬が多そう。
それから距離千四の経験、意外にも大多数の馬が持っている。
未経験馬の苦戦は逃れない、ということでしょうか。
優先祖先に関しては、とくにビッグアーサーの形を持つ直系産駒の優秀さは特筆もの。
まだG1勝ち馬こそ出ていませんが、今後この高松宮記念によりフォーカスしていくことで初のG1勝ち、後継誕生へ道が開かれるのではないでしょうか。
今のままでも最低限、形の活きる種牡馬として優秀なことは間違いない存在ですけどね。
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もちろん、距離千二を主体とするEQ指数も忘れずに出していきますよ。
今回は芝の稍重〜重までをカバーすべく、初速12.0〜12.3の間でいいレースをしている馬たちを上位にとります。
12.0〜というペースに関しては、逃げ馬候補の1頭ビッグシーザーが出した24年京阪杯のラップを見ても、初速が12.0で2F目が10.7となっていますから、この初速予想はあながち間違っていないと思います。
少なくとも2F目が11秒台に落ちるような超スローの心配はないはずです。
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参考までに、EQ指数を全部見たいという方のために計算可能な馬の分は全部出しておきます。
千二に関してはいま研究中の千二専門の出し方をしています。
3F目まで計算するやり方で皆さんとは異なる結果かも知れませんが、興味のある方はいったん動画を止めて確認してください。
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そしてもし今年の高松宮記念が一番良馬場に近いコンディションで行われるならば、私のEQ指数からはご覧の5頭が有力となります。
サトノレーヴ、エイシンフェンサー、キタノエクスプレス、ビッグシーザー、ママコチャですね。
ただしこのうちキタノエクスプレスとビッグシーザーには千四のレース経験がありませんので、頭からは買えず、あくまで相手として。
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次いでもし今年の高松宮記念が重馬場に近いコンディションで行われるならば、EQ指数からはご覧の6頭をピックアップしたいです。
サトノレーヴ、トウシンマカオ、ドロップオブライト、スズハローム、モズメイメイです。
このうちスズハロームは、編集時点ではまだ除外対象のようですね。
そしてすでにお気づきかと思いますが、良馬場、重馬場どちら向けの予想でも、今年はサトノレーヴが主力級の存在になります。
私も指数を計算しながらちょっとビックリしたのですが、とくに時計がかかる状態だと2番手以下とは圧倒的な指数差があるので、今年はひとつこれを信じて本命はもうサトノレーヴに固定し、あとは当日馬券の相手だけを何頭か選んでいこうと思います。
次のコーナーでは有力馬たちの血統構成をみていきましょう。
(15)(5秒ジングル)
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まず1頭目はサトノレーヴです。
実は昨年のスプリンターズSで、私は彼のことを「指数も大したことがなく、前半ついて行けるか心配な馬」と低評価していたのですが、反対に今の中京ならスピード不足を補って余りある適性があると思います。
私が今の時点で本馬をかなり冷静に本命視できている理由のひとつに、この配合面から見ても優秀なスプリンターを出しやすいパターンに入っていることが挙げられます。
もちろん父は中京芝で実績十分のロードカナロアなんですが、本馬の場合は劣性でやり過ごして、また母父のサクラバクシンオーも同じく劣性でやり過ごして、優先祖先は意外にもなんと母系3代前のシエイデイハイツに遡ります。
シエイデイハイツは世界中を股にかけた芝のジャーニーマンで、欧州ではかなり硬めの芝を好む馬でしたが、さすがに日本やアメリカの馬場をこなすまでには至りませんでした。
引退後日本で繋養されてからも、本馬の祖母であるメガミゲランが一番のスピードタイプだった可能性まであるほど産駒には恵まれませんでしたが、母の父としては本馬の母チリエージェや、菊花賞と宝塚記念を制した奇跡の馬ヒシミラクルなど、形として機能した形跡も十分見て取れます。
意外とこういう祖先が牝馬スピードの乗り物、受け皿としてはけっこう機能するもので、本馬も欧州系のクッションがNorthernDancerのクロスをうまく受け入れているのでしょう。
母チリエージェにとっては本馬は10番仔というキャリア後半の傑作ですが、その仔出しの良さは祖母から受け継いだ真のMAX活性も効いていると思います。
海外遠征を経て一回りたくましく成長した姿をぜひみせてほしいところです。
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2頭目は稍重の時の刺客、トウシンマカオです。
高松宮記念ではここ2年重馬場に泣かされている印象もありますが、私の目には彼は本質的に稍重に近い良くらいが一番力を発揮する馬、配合に見えます。
ビッグアーサー産駒はセールデータもよく見るし、また実際に推奨することもありますが、傾向として本馬のように多重クロスが付いてまわる産駒が圧倒的に多いです。
ミニマム期にはうまく弊害が消える組み合わせもあったんですが、通常の年はとてもじゃないけどこのまま候補には推しにくい。
でもここまでクロスしたスピードを弊害覚悟で活かせた個体なら、脚質は切れよりも持続性に特化してくるはず。クロスが生み出すスピードってなぜか持続性に振れやすいと私は思っています。
だから一瞬の加速で自分から獲物を捕まえにいくよりは、やや漁夫の利待ちで落ちてくる相手に追いつく競馬が合っているのかも。G1だとそれが今一歩届かない理由かもしれませんが。
でもしセールで同じビッグアーサー産駒だったら、私ならこっちを推したいなと思うのが
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このビッグシーザーですね。
本馬はミスプロのクロスが弊害なく活かされた美しい配合。このTale of the Catの母Yarnはたまにミスプロのゼロを活かす組み合わせとして登場する牝馬です。(ドレフォンなど)
しかも母のアンナペレンナは祖母Maria’s Stormの真のMAX活性産駒かと思われます。
代々の牡馬祖先ではStorm Cat以外にビッグネームはありませんけど、字面以上に奥深い血統土壌の持ち主です。
ただ彼は千四の経験値がゼロなので、馬券としてはあくまで良馬場での相手候補になるでしょうか。
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もし良に近いところまで馬場が回復するなら、大穴として考えたいのがこのキタノエクスプレスです。
一般にアジアエクスプレス産駒はまず大きなクロスを生じません。
従って健康ではあるのですが、スピードの爆発力としては物足りないところがある。
ではこのキタノエクスプレスのスピードはどこからやってきたのか。
その源は、ずばり自らが母の真のMAX活性産駒であることです。
ぎりぎり母と同じ4月28日付ですが、堂々とサイクル内に入っています。
よって彼は前の3頭とはスピードの出所が違う1頭で、スプリンターの作り方が一通りでないことの証しですね。
優先祖先でもある父アジアエクスプレスは、芝とダート両方の重賞を勝った二刀流ですが、本馬も最初はダート戦からデビューし、芝に転向したのはなんと6歳になってからという遅咲き。
よくダートを走れる馬は芝の重馬場でも大丈夫という声を聞きますが、私はそう思っていません。
むしろダートから芝に転向した馬、ダート適性の優先祖先を持つ馬の狙いどころは、脚の構造上パンパンの良馬場になります。ですから今年は一にも二にも、馬場の回復を願っている1頭です。
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高松宮記念2025 G1解析動画 いかがだったでしょうか。
いま種牡馬ロードカナロアの後継候補といえば、ダノンスマッシュ、パンサラッサ、ファストフォースなどなかなか個性派が揃ってきたのですが、ビッグアーサーに関してはもうちょっと奮起が必要みたい。
今回検証したように、形としては大いに機能している種牡馬ですし、受胎率もいい。
ここからの数年にわたり再び優性期が訪れますので、早めに大物の後継候補が現れることを願っています。できればバクシンオーの形まで再現した子がいいなと思うのはぜいたくですかね。
今回の動画はここまでです。
ご視聴ありがとうございました。