テシオ理論に残された謎のひとつ サイクルの初期説
先日ブログに大変興味深いご質問をいただいていたので、動画制作で遅くなったがさっそく私なりの今の見解を述べておきたい。
コメントの内容はこんな感じ。
「デアリングタクトの月のサイクルは裏か表か判断が非常に難しい。母の良いサイクルのぎりぎり間際なので、いろいろなことが流動的になっている可能性もあるのでは?」
「そもそも母がサイクル裏で、娘のタクトが表?」
「タクトは表の期間のすごく初期なので、めっちゃスピードがある?」
「それとも母がサイクル表で、娘は境界ギリギリの後期表に引っかかった感じで、距離が保つ馬になった?」
というものだ。
今私たちが公式に試みているのは、母の繁殖サイクルの良い期間に入るか入らないか、これにより月のサイクルの表か裏かを判断する方法までだ。
しかしその繁殖サイクルの期間は2か月に及ぶ上、テキストには「(野生動物間の力関係や本能として)まず発情の初期に種付けする方が生き残る可能性が高いから……」旨の記述があり、その2か月の初期にどれほどこだわるべきなのかが課題となっている。
そのため、読者の中には「スターホースの種付け日とサイクルの境界日が際どすぎて、いまいち判断に苦しむ」方がいるのだ。
またこの2か月が母の良いサイクルに入っていなければ何の意味もないので、前の兄弟誕生に押されて、効果的な期間が残りのうしろ2週間しかなかった!なんてケースもある。その時はその2週間がサイクルの後半でも「超初期」ということになり、おそらくチャンスは1回しかない。(※これは重要)
この話題は繁殖の本質に迫る上、私たちが畜産の専門家でないことも迷いに拍車をかけている。ともあれ今回も直接的なお答えにはならないが、私がちょっと思うところを別の観点からお話ししよう。
アーモンドアイはどうだったのか
ここからは「スターホースの種付け日がすべて月のサイクルの表に入っている」前提でお話しする。でないと全然話が進まないw
まず昨年の年度代表馬アーモンドアイの種付けから誕生までを時系列で見ていこう。
●母フサイチパンドラ 03.2.27生
繁殖サイクル 2.13〜4.13
14.1.26 姉パンデリング誕生
2.5付近 初回発情
2.13 母の良いサイクル開始
2.26付近 第1回チャンス
3.19付近 第2回チャンス
14.4.10 カナロア種付け(=第3回自然チャンス)
4.13 母の良いサイクル終了
15.3.10 アーモンドアイ誕生
実はフサイチパンドラも考察に迷う繁殖の1頭だ。ここではアーモンドアイのサイクルを表とするが、アーモンドアイの場合、ご覧のように必ずしも良いサイクルの超初期に種付けされた馬ではない。むしろ種付けチャンスとしては最後の3回目をギリギリ活かした形になる。
初期型ではないパターンの名馬をもう1頭。オルフェーヴルだ。
●母オリエンタルアート 97.5.12
繁殖サイクル 4.26〜6.26
07.1.21 兄ジャポニズム誕生
1.31付近 初回発情
2.21付近 第1回チャンス
3.14付近 第2回チャンス
4.4付近 第3回チャンス
4.25付近 第4回チャンス
4.26 母の良いサイクル開始
5.16付近 第5回チャンス
5.27付近 ステイゴールド種付け(薬剤?)
6.6付近 第6回チャンス(↑)
6.26 母の良いサイクル終了
私は以前からオルフェーヴルの誕生は、偶然にすごく恵まれた部分が大きい馬だと思っていた。というのは、兄ジャポニズムが生まれて4か月も経った後に種付けされたことを知っていたからだ。
通常このクラスの繁殖が種付けもせず4か月も放っておかれることはない。母体の状態など事情があるなら早々に諦めるか、5回目までの発情が良さそうならすぐに逃さず種付けするに決まっている。誰も母の良いサイクル開始が4月26日以降だなんて思っていないし、その辺の事情は私にもわからない。
しかしオルフェーヴルはなぜか母の良いサイクルが始まって2回目のチャンスをものにした。ご覧のように自然のサイクル日とは10日ほどのズレがあるので、これは薬剤等を使用し6回目のチャンスを早めた形跡と思う。しかし種付け自体はスムーズに1回で付いた。
先ほどのアーモンドアイとの比較で最も異なる点がこの薬剤によると思われるズレだ。アーモンドアイの種付けの時にも薬剤は使われていたかもしれないが、なぜか自然に計算できる(3週間間隔)予想日どおりの発情にカナロアが種付けされている。これはテシオ的には超初期でなくとも100点を与えられる種付け日かもしれない。
オルフェーヴルの発情日が悪いわけではなく、アーモンドアイの類い希なスピードの発祥地はこの「自然な発情日」かもしれないと思うわけだ。
じゃあ昨年の3冠馬たちは?
ならば読者さんが気にされるデアリングタクトも見ておこう。
●母デアリングバード 11.5.9
繁殖サイクル 4.23〜6.23
16.3.24 姉誕生
4.3付近 初回発情
4.23 母の良いサイクル開始
4.26 エピファネイア種付け(=第1回チャンス4.24。1回のみ)
17.4.15 デアリングタクト誕生
……
18.4.7 マオノジーナス誕生
4.17付近 初回発情
4.23 母の良いサイクル開始
5.1 ノヴェリスト種付け→不受胎(薬剤?)
5.7付近 第1回チャンス(↑)
5.28付近 第2回チャンス
6.17 エピファネイア種付け(=第3回自然チャンス6.18。)
6.23 母の良いサイクル終了
19.5.16 デアリングバードの19(ライオン) 誕生
3冠牝馬デアリングタクトは、前年からごく自然な成り行きで、サイクルの初期&自然発情日に1回で種が付いた馬だ。これを見る限り、今後少しの間はこのデアリングタクト誕生のサイクルを表とみていきたい。
で比較対象として、妹のマオノジーナスはサイクル裏なので、その下19年産のライオンRHに所属した全妹の様子も記しておいた。
この妹はサイクルだけなら三冠姉と同じ側だが、高評価できそうだった初回ノヴェリストの種付けが薬剤プラスでつかず、3回目チャンスの自然発情日でエピファネイアが付いた。
これを見る限り、私の19年産全妹評価は「並」程度といわざるを得ない。同じシーズンに一度ホルモンに影響を与えているし、それでいながらその後自然発情日に発情が来たこともビックリなのだが(この辺は新たな知見を得られた感じ)、いつも自分が複数回の種付けをなぜ嫌うかというと、人工的に一度このような緻密な作業が行われた後だからに他ならない。
薬剤を使うこと自体はこの世の中だから否定しないが、それはあくまで「最初の種付けを100%近く成功させる」ためであってほしいし、その後の種付けには基本期待しない考えだ。
種付け日データをたくさん見れば一目瞭然だが、ノースヒルズやゴドルフィンも薬剤は使っている。しかし動画でお話ししたとおり、この両生産者はその後の2回目種付けをほとんどせず、その意識だけはどこまでも徹底している。ゴドルフィンに至っては初回発情の種付けもしないので、それでいてあの高確率生産はちょっと格の違いを見せつけられる感じだ。
話を戻して、ちょうどノースヒルズの話が出たので、コントレイルも見ておこう。
●母ロードクロサイト 10.4.17生
繁殖サイクル 3.31〜5.31
16.3.23 姉アナスタシオ誕生
3.31 母の良いサイクル開始
4.2付近 初回発情
4.17 ディープインパクト種付け(薬剤?)
4.23付近 第1回チャンス(↑)
17.4.1 コントレイル誕生
ご覧のように、ごく自然な現代法で発情をコントロールした上で、ディープインパクトが初期の1回で付いている。やはりこれが現代における正攻法なのだろう。ちなみにコントレイルのように、前の出産から約3週間で種付けされていたら、それはコントロールされた上での最も早い発情日を示す。これが自然発情だと30日程度かかるから、薬剤で10日ほど発情を早める効果もあるようだ。(オルフェのような繁殖シーズン後半にはぜひ試したい方法)
では「サイクル初期がいい」の本当の意味とは?
ここまで種付け日がわかる現代の名馬を見てきたが、私は以前から「もしかしたらサイクルの初期にはあまりこだわらなくてもいいのかな」という気がしていた。もちろん良いサイクル初期と1回目の種付けが重なったときの爆発力はあるだろうが、それよりも今回わかった「薬剤の使用不使用によらない自然発情日」と重なる日付の種付けが、けっこう威力ありそうな気がする。
今回の名馬たちの種付けをもう一度まとめておくと、
・アーモンドアイ 期間3回目 自然発情日
・オルフェーヴル 期間2回目 薬剤?
・デアリングタクト 期間1回目 自然発情日
・コントレイル 期間1回目 薬剤?
中でも私が最も評価するのはもちろんデアリングタクトだし、これはぜひ探す価値のある馬だと思うが、現代ではコントレイルも同等の評価になり、次いでアーモンドアイ、オルフェーヴルの順に考えたい(オルフェがダメなのではなく、距離が保つ馬だった背景も考えて)。
今回は名馬の生まれたサイクルを表と仮定してお話ししてきたが、アーモンドアイも境界が相当際どい(ぎり3日)ので、もしかしたら次のサイクルの超初期に自然発情日で入っているのかもしれない(その場合母のG1馬フサイチパンドラが表ということ)。その方が夢のある考え方だし、今後クラブで一発長打的に狙う馬も探せそう。
またオルフェーヴルが兄ドリームジャーニーと裏表の関係なのは、兄が初仔の効果を受けているからかな……など他にも考えたいファクターは山のようにある。これらは時間が解決してくれる面もあるので、とにかく今後は「初期」そのものに加えて「自然発情日」の概念を少し頭に入れていただけたらと思う。
自然発情日は前の仔の誕生から30日目が初回、そこからは3週間間隔で計算できる。
この件はまだちょっと言い足りていない感もするし、さっそく今年のクラブ評価に入れるかどうかは迷うが……入れば面白いことになるんだろうね。
日頃の動画、ブログ製作お疲れ様です。
YOUTUBEからドルメロchを知り、本ブログを拝見させていただいてます。
自分自身も、血統を中心に競馬を見てきたので、本理論においてなるほどと思わせてくれることがたくさんあり、大変興味深く思っております。
すいません。本記事の内容とは違う質問ですが、馬の血統表から活性値の優劣を調べていく中で、父~4代前父までが全て劣性期だった場合はどのような判定をすれば良いのでしょうか。
また、そのパターンとしてヴェルトライゼンデが該当していると思っておりまして、マンデラは全て劣性期、父ドリームジャーニーは04年2月産まれです。ヴェルトライゼンデが17年2月産まれで、仮に16年3月に種付けをしたとしたら、父ドリームジャーニーは12歳1か月の年齢で交配したことになるので、活性値4をわずかですが上回るので、このようなケースで優性期と判定することもあるのでしょうか。
すでに過去の動画や記事で、このようなモデルケースの説明がございましたら、勉強不足で申し訳ございません。ご多忙とは存じますが、よろしくお願いします。
ちせさん、はじめまして。
いつも動画のご視聴ありがとうございます。
ご質問のお答えとして1本記事を書いておきましたので、ご覧いただけたらと思います。
マンデラはいつも父の良いところを出してくれる「内助の功」型繁殖ですね。
いま日本のクラブやセリ市を見てもこのタイプはそうそういません。
なかなか過去の父の良い形が出ないから、競走牝馬としては淘汰されてしまうのかも……。
これからもどうぞよろしくお願い致します。
ありがとうございました。
いくら医学が進んだ現代でも自然発情での種付けには敵わないということでしょうか。
種付け日が分かるだけで今回のような繁殖のカラクリまで垣間見れるんですね。
アーモンドアイに関しては自然発情もあるかもしれませんが、やっぱり超初期に入ってて欲しいというのが個人的な思いですかね。
おっしゃるように夢があるので。
今回の記事率直に面白いと思いましたし、ワクワクしながら読ませていただきました。
自然発情か薬剤使用か早速色々な馬を見てみます。
記事を書き終わった今でも「これはかなりいいところを突いたんじゃないか」と思っています。
いいね!ですよ、わにさん!
こうして名馬ばかり並べると、アーモンドアイが超初期だという仮定は、捨てるには惜しい考え方です。
もし超初期なら、今回の名馬中の3頭がいちおう等しく評価できることになります。
私は「後期」「裏」産まれの名馬もたくさんいる派ですので、オルフェーヴルのサイクルが他の3頭とやや異なっても気になりません。
さらに天皇賞春や菊花賞の勝ち馬たちは、気をつけるべき後期候補、裏候補ではないかとも。
時間があれば、たくさん調べたいですね。