※これは8月4日YouTube動画の台本原稿です。
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こんにちは、ドルメロチャンネルです。
さて今回は2025夏のセミナー企画第2弾として、サラブレッドの受胎のしやすさと頭の良さには関係があるのかという、ちょっと不思議な話題についてお話していきます。
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今回のテーマについては、サムネやタイトルをどう決めたらいいか迷いました。
というのもこの話は中島国治氏が書いた2冊の本、しかも中身はほぼ同じ本なのに、ある数字にそれぞれ違った役割があると書かれているからです。
その辺をよく含んでいただきながら、こんな考え方もあるんだなという感じでお聞きください。
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テシオ理論における血統表の読み方として、図の(1)から(4)に位置する種牡馬が重要だ、ということはよく知られています。
最初の著書「血とコンプレックス」で中島氏は、この(1)から(4)に位置する種牡馬の活性値がすべて異なると、その産駒は頭脳明晰である可能性が高いとしています。
さらにもしこの(1)から(4)の中に同系の種牡馬がいるときは、その2頭の種牡馬の活性値がなるべく離れていた方がよい、その方が仔馬の頭脳によい効果を与えるとしています。
これが「血とコンプレックス」における中島氏の見解でした。
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ところが2冊目の著書「ゼロの理論」では、もう少し踏み込んで、種付けする種牡馬は自分でセレクトできるのだから、生産者自身がこの(2)、(3)、(4)の祖先とは活性値が異なる(1)の種牡馬をセレクトして付けるべきだ、としています。
しかもそれには知性面とは別の理由もあると言いだしたんです。
そうしなければならない、生産者としてすごく重要な別の理由が…
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種付けする種牡馬の活性値を母系と重複させず、配合全体でもあえてバラバラの活性値で組み立てるその理由、それは種付けにおける受胎率に関係するからだというのです。
え? 活性値が受胎率に? これは初めて聞くと突拍子もない話に飛躍していますし、やや生産者サイドの話でもあるのですが、よかったらもう少しお付き合いください。
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活性値と受胎率の関係をお話しする前に、ひとつ準備をしておきましょう。
これは円を8等分した図形で、その中に0から2までの活性値を書き込んであります。
著書の中にもありますが、ここからの話はこういう自作の表があった方が理解が進みますし、仮に実際の現場で試す際にも間違いが起きず、たくさんの繁殖牝馬を管理しやすくなると思います。
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さていま対象となる繁殖牝馬の母系にいる(2)、(3)、(4)の種牡馬の活性値が、それぞれ、0.5、0.75、1.0だったとしましょう。
さきほどの図形の中で、この(2)、(3)、(4)の活性値が該当する場所を塗りつぶしておきます。
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次にいよいよ今回種付けする種牡馬を決めるのですが、このときサラブレッドの頭脳面を考えれば、この(2)、(3)、(4)の祖先とは異なる活性値を持つ種牡馬、これが候補としてふさわしいというのです。
もし今回の種牡馬(1)が活性値0.25であれば円内のここに該当しますから、単純に頭脳面から考えた場合、(1)は種付け候補として十分ふさわしいというわけです。
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もし今回種付けしたい種牡馬①の活性値がこの(2)、(3)、(4)のどれかと重複するようなら、あまりよい結果は期待できないから別の種牡馬に変えてもいいんじゃないか、ということなんですね。
加えてもうひとつ、たとえば(1)の父と(2)の母の活性値が重複するこのケースであれば、生まれてくる子の種付け日とお母さんの種付け日、この日付がうんと近い状態…目安としては1か月以内の場合…これはまた別の弊害を心配しなければならないと中島氏は言っています。
これはまた後で解説しますが、ともかくなぜこんなに活性値の重複を嫌うのだろう、そこが気になりますよね。
サラブレッドの頭脳面への影響以外に、活性値の重複が及ぼす影響とは一体何なのか。
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その理由のひとつめ。 種牡馬の活性値が母系内の父と重なると、そもそもの話として受胎率が悪くなるから。
付けようとしても種が止まりにくいというんです。
「ゼロの理論」の中で中島氏は、繁殖牝馬の胎内センサーが自分の祖先(2)、(3)、(4)と、これまで種付けした過去の種牡馬(1)の両方の活性値を覚えているからだという表現をしています。
まあ実際には人間界の芸妓(げいぎ)と娼婦(しょうふ)の例を出していて、今回はコンプラ上控えておきますけど、とにかくメスの胎内には過去と同活性の種牡馬の種を受け付けないセンサーがあるのだという。
わざわざ受胎率が悪くなると知ってまで、スター種牡馬の種付けを試す生産者はいませんからね。
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それから2つ目の理由。
種牡馬の活性値が母系内の父と極端に近く重なると、仔馬の前肢に内向、外向が出やすいから。
これは先程少し話した、仔馬と母馬の種付け日が1か月以内で重なっている場合のケースです。
母が4月1日付けなら、子が3月1日から5月1日あたりまでが、これに該当する。
しかしそれより遠い日付なら、同活性の弊害はないとも言っています。
中島氏はこのケースをニアミス、と呼んでいますが、たたでさえ受胎しにくいところに仮に受胎できたとしても、生まれてきた仔馬の脚に内向や外向が出やすい状態らしいのです。
著書では例として、シアトルスルーやマルゼンスキーの外向を挙げています。
私の若い頃はこのマルゼンスキーの外向といえばそれはもうファンの間では常識でして、逆に産駒にこれが遺伝しなければ走らないとまで言われたものです。
しかしよくよく考えれば、マルゼンスキーやシアトルスルーを授かった時点で配合法としてはそっちが成功なんじゃね?と軽くツッコミを入れたいところでもあり、この辺はあくまで参考意見として聞いて下さい。
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そして3つ目の理由。
種付けした種牡馬(1)に関して、受胎センサーの記憶は4年間にわたり継続される。
(2)、(3)、(4)の祖先に関しては消えることのない活性値記憶ですが、(1)の新たに種付けした種牡馬の記憶に関しては、4年間継続したのち、それを過ぎると再び種付けしてもいいことになる。
これは何を表しているかというと、毎年母体の記憶がない活性領域でがんばって種付けを続けていこうとすれば、おのずと今から3、4年後の空き活性スペースは限られてくるという現実です。
5年目は実質1箇所しか空きがないケースだって考えられる。
これを知らずに、あるいはこれに抗って種付けをするから、数年経ってくると繁殖牝馬の受胎率が目に見えて落ちてくるのだ、中島氏はそう言っているんですね。
繁殖牝馬の3、4年目と言えばそろそろMAX活性期が訪れる頃でもあり、母の一世一代の勝負がかかるわけですが、そこを不受胎で逃すのは理論を知る者としていかにも辛い。私にも経験があります。痛恨の極みです。
また期待していた競走上がりの繁殖が1年目、2年目とどうしても種が付かない。
なぜだろう、状態はそんなに悪くないのに…これも経験があります。
たとえこの類の話がオカルトだったとしても、馬産地という厳しい現場において1%でも確率を上げたい、わらにもすがりたいというご要望があれば、少しでも光明が見えるようお手伝いをしよう、それが人というものです。
活性値の重複をうまく防ぎながら、配合としても意味のある種牡馬を推薦するのは私の使命でもありますので、今後訪れる困難な場面では今回の知識もぜひフル活用しようと思っています。
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さて活性値の話から産駒の頭脳、そして受胎率まで話は飛びましたけど、今度は実際の名繁殖牝馬たちの成績からどんな種付けがされ成功していたのかを見ておきましょう。
なおここでは話を簡単にするため、誕生日で大まかな活性値を見ています。
まずは自ら競走馬として活躍し、繁殖としても大成功した名牝エアグルーヴです。
彼女の母系の活性値の特徴としては、母のダイナカール自身がノーザンテーストのゼロ活性であり、さらに誕生日が遅いこと。これが1番大きな特徴です。
活性値面でまず生産者の再現が最も難しいゼロを持つ、そして母たちの誕生日が遅い。
この2点で産駒と種付け日の競合を避けられる可能性がグッと上がりますよね。
案の定エアグルーヴの歴代産駒で、気になる活性値の重複を持つ馬は星印の3頭しかいません。
しかもそのうちの2頭は前年の産駒との重複であり、もう1頭は3代母とわずか数日だけ近い重複ですから、実質的には母系祖先との重複はほぼ起きていなかったといえるほど優秀な成績です。
強い競走馬の仔出しがこれほど良かったというだけでも立派ですが、活性値の面からも面白い結果が読み取れますね。
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もう1頭の名繁殖は、クロウキャニオンです。
彼女は競走成績は普通も、繁殖としては際立った成功を収めた牝馬です。
というのは彼女の場合、全盛期の配合相手がほぼディープインパクト1頭に固定されたため、活性値のローテ移動が毎年一定の数値0.25ずつであったこと。
そしてやはり代々の母たちの誕生日が遅いので、早生まれ生産が主となるノーザンファームの方針とも合致し大きな重複を防げたこと。
これらにより、なんと17年間にわたって1回種付けのみで不受胎なしという奇跡的な成績を収めました。
もし種牡馬を1頭に固定できれば、活性値の出し入れで毎年悩むことはない。
かつ母系の誕生日が遅ければ、何年でもまっすぐ空いたローテを進むことができる。
ディープインパクトとクロウキャニオンだからこそ可能だった黄金配合とでもいうべきでしょうか。
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そしてこの活性値の重複をみる手法ですが、さっそく今年のサマーセール候補馬選定に採用しています。
ドルメロ自身は下見で実馬を見ることができませんし、またオーナーさんが下見に行ったのに断念する事態がなくなるよう、この方法でなるべく脚の外向や頭脳面の凡庸リスクを回避しておきたいと考えています。
今年のサマーセール上場馬は現在1462頭ですが、いつものデータ面で最終候補に残ったのが15頭。
うち今回の4系統活性値に問題がなかった馬が9頭、ニアミスではないものの同活性があった馬は5頭という結果になりました。
やはりデータ上優れた馬は思ったより活性値に問題のない子が多いですし、何よりこの世に生まれていること自体がエリートなのかも、そんな印象を持ちました。セールの結果が楽しみです。
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今回は、サラブレッドの活性値と頭脳、受胎率の不思議な関係についてお話ししました。
信じるも信じないも全て、あなた次第です。