出走馬1頭1頭の横顔を見るその前に
海外競馬の記事を書くときはJRAのHPをよく参考にする。
理由は出走馬の名前とその英語表記を知りたい(海外の血統サイトで各馬を調べるので)から。
ところが今回ふとしたことから、このレースで好走する馬の血統背景が本当にワンパターンだということに気がついたので、以下に共有しておく。
注目してほしいのはHP内の「近5年で3着以内に入った馬の父と母の父」をまとめた表である。
表のポイントは父サドラーズウェルズ系に注目…でなはい
表とともに評論家の秋山響氏がまとめた記事によると、近年のプリンスオブウェールズSでは
▼父はNorthern Dancer系種牡馬の産駒が非常に強い
▼とくに父サドラーズウェルズ系は驚異的な強さ
▼母の父においても主力はNorthern Dancer系
▼とくに母父Danzig系が強い
ということになっている。
確かにその通りで、該当馬15頭中13頭がNorthern Dancer系の父馬を持ち、15頭中7頭がDanzig系の母父を持っている。
よって今年もそのような馬がいればもちろん血統面から推せる有力な候補になるのだろうが、ここでふと
▼なぜ、ほとんどがサドラーズウェルズとDanzigの組み合わせばかりなのか
という疑問がわいてくる。
ここまでサドラーズウェルズ系がはびこる欧州競馬だから、中に1頭くらい遠くても「サドラー×サドラー」というクロス馬がいてもよさそうなもの。(Danzig×Danzigでもよいが)
しかし近5年の好走馬はすべて「サドラー×Danzig」のクロスばかり(父と母父が逆転した例はある)であり、そのクロスそのものに「ニックス」という逃げ道とは違ったカラクリがあると思いませんか?
やはり偉大だったDanzigのゼロ活性産駒〜デインヒル〜
ここで今回の考察に役立つのがDanzigとその仔デインヒルの関係性である。
たびたび申し上げているとおり、デインヒルはDanzigの満8歳時ゼロ活性馬で、Northern Dancerのクロスを無効化できる種牡馬候補の1頭だ。
プリンスオブウェールズSで好走している馬が持つ「母父Danzig系」とは実はほとんどがこのデインヒル経由であり、母父が単なるDanzig系ではこの現象は起こりにくいと断言できる。
実際Dansili、Mozart、Mastercraftsman、Choisirはデインヒルを経由。
AnabaaとCape CrossはDanzigの直仔だが、Cape Crossを母父に持つWestern Hymn(16年3着馬)は父系のNorthern Dancer活性値が0.14…と極めて低く、ほとんど影響がなかったと推測される。(ちなみに母父Anabaaは凱旋門賞2連覇のトレヴ。Northern Dancerめっちゃ強くてこれは例外かなぁ?3着だったけどwww)
そこでたとえば17年勝ち馬のハイランドリール。
デインヒル経由でNorthern Dancerクロスさえ無効なら、あとはBuckpasserのクロスが1本残るのみ。
Buckpasserは傍系でクロスに強いと考えられ、ハイランドリールの競争本能には影響が少なかった。
4系統は他にハイペリオン系、ブラントーム系と多彩。
たとえば15年の勝ち馬、フリーイーグル。
デインヒル経由でNorthern Dancerクロスがなくなると、完全なアウトブリード馬。
4系統もレイズアネイティヴ系、プリンスキロ系が加わり多彩。
そして14年の勝ち馬、ザフューグ。
こちらは父がDanzig系の逆クロス馬だが、やはりNorthern Dancerクロスがなくなるとアウトブリード馬。
4系統もバステッド系、ボールドルーラー系が加わり多彩。
そして残る16年勝ち馬マイドリームボートと昨年18年の勝ち馬ポエッツワードに至っては、父がミスプロ系の馬だったのである。
欧州競馬とてNorthern Dancerの呪縛から逃れないと勝てない?
このように欧州競馬のトップオブトップの戦いにおいても、天下安泰に見えるサドラーズウェルズ系の影響下から「なんとか抜け出そうとしている」競馬の神の御心が浮かんでくる。
そして2018年。神の啓示が新しい形で示された。
この年久しぶりに3着以内にサドラー×Danzigの黄金配合がいなくなり、新たに加わったのが
▼皇帝フランケルの血を持つ産駒
である。
先日、日本のクラブ所属フランケル産駒を診断した際、フランケルの持つNorthern Dancer活性値自体はとても低いことをお伝えしたと思う。
実はサドラーズウェルズのNorthern Dancer活性は0.75とさして高くないのだが、その息子GalileoがサドラーのMAX活性産駒であるため、数値は一気に1.5へとジャンプアップしてしまう。
ところがそのまた息子であるフランケルはGalileoのミニマム期産駒なので、常時持っている基礎活性値は1.5×0.25=0.375にとどまる。
これは何を意味するかというと
▼フランケルをただ配合するだけでもNorthern Dancerクロスから逃れられるほど活性の低い年が出てくる
という奇跡である。
08年生まれのフランケルは18年(ミニマム期)種付け19年生まれの産駒において、Northern Dancer活性値が0.375×0.25=0.09375<0.125で、クロスとして存在する濃度そのものを失う。
つまりこの年は、種付けした牝馬のすべてのNorthern Dancerクロスを何も考えることなく無効と考えてよいのである。
私はこの18年種付け組からフランケルの超大物産駒が飛び出して来ないかと期待しているのだが、はたして…。(父似じゃないけどね)
救世主フランケルの果たす大きな役割
ずっと以前にもフランケルという種牡馬の存在意義について考察した回があったが、そのときはまだ勉強道半ばでここまで結論が及ばなかった。
フランケルの優先は5代前の名牝Natalma(1957)。
Natalmaは言わずと知れたNorthern Dancerの母であるから、世界の近代競馬発展の礎となった繁殖牝馬だ。
しかしフランケルがそのNatalmaを優先としていることはまたまた暗示的で、言ってみれば彼はNatalmaの牡馬版であるはず。つまり競馬(馬産)の神は
▼今度はこのフランケルを礎に欧州競馬の血統を再構築せよ
とおっしゃっているのではないかとも思う。
その主役となるのが18年に種付けされた数十頭のNorthern Dancerに冒されていない優駿・フランケル産駒たちであることはいうまでもない。
いささかファンタジックになりすぎて恐縮だが、表を見ながらそんな妄想が一瞬頭をよぎったもので、ちょっと書き留めておきたかった。
長いな!ここから予想かよ!!
でもって今年の出走馬中にそんな馬がいないかなと探したら、ちょっと変わった適性馬がいましたってば!
▼シーオブクラス(英国・牝4)
休み明けでここが今シーズンの緒戦。
昨秋の凱旋門賞での鬼気迫る追い込みは記憶に新しく、人気になるのも仕方がないけれど、実はこの馬、父シーザスターズ(Danzig系)のゼロ活性産駒だったんですね。
昨年の凱旋門賞’18は自分も検討したんスけど、どうも基礎体力にばかり目がいって肝心の父活性には気がつかなかったみたい(遅生まれであることは書いている)。
ここ3代Northern Dancer系の父ばかりかけていて「よくこれで走れるよな」と思っていたら、そうですかそんなカラクリがありますか…。
他にもミスワキ(1978)やBalidar(1966)といった珍しいクロスもあるが、ひとまずNorthern Dancerから逃れているのは大きなアドバンテージ。
基礎体力は69。
もしこれがコケるなら
▼マジックワンド(愛国・牝4)※回避
本馬はいわゆるGalileo×デインヒル黄金配合で、今回の趣旨からいけば買っていい存在。
ただし歴代の先輩方と比べて他にもミスプロのクロス濃度が強く、アウトブリード馬ではないことが引っ掛かるし、基礎体力も低めなのでね。
最後に抑えとして
▼ヴァルトガイスト(仏国・牡5)
これは父Galileo産駒ながら母系に一切Northern Dancerがなくてアウトブリードというタイプ。
基礎体力も高い(★72)し、いよいよ母国フランス以外でビッグタイトル奪取のチャンスかも。