補欠馬が巻き起こした100年に一度の大波乱
今年のケンタッキーダービーは、超大穴Rich Strikeのイン突き追い込み策がズバリはまり、世紀の大波乱に。もちろん馬も騎手もスゴいが、前日に「枠空いたんで出ますか?」と言われて「ああ出るよ」と二つ返事で答えた陣営もスゴい。よくぞそこまで仕上げて1%の幸運に賭けていたものだ。「人事を尽くして天命を待つ」とはまさにこのことだろう。
日本でも過去に抽選すべり込みの馬がG1で大穴を空けることがあった。とくに出走枠の取り合いとなるクラシックでは、抽選対象馬が何度も「歴史を動かして」いる。厳密には抽選ではないけれど、古くはスーパークリーク&ガクエンツービートが出走可能となった88年の菊花賞が好例だろうか。菊出走に至るエピソードも加味して振り返ると、運命の歯車って本当に回るんだなと思わせる。
さて今年のKダービー勝ち馬 Rich Strikeについては、勝利直後から「彼の血統がまたスゴい」という声をよく聞く。某掲示板では「Smart Strikeの2×3かあ! まさにRich Strike!」という書き込みも見たし、「Keen Iceってどんな種牡馬?」という疑問も当然あるだろう。
さらにテシオ理論を学んでいる方の中には、もう少し違った角度からRich Strikeの血統の不思議さに気がついておられる方もいる。今回はその辺の疑問にドルメロなりのお答えをすることで、かすりもしなかった動画の罪滅ぼしとさせていただく。(補欠馬激走はホント、勘弁してほしいw)
Rich Strikeの奇妙な血統表
まずRich Strikeの血統表で一番目に付くのは、クロスの多さだろう。しかもその配置がかなり意図的。息子が米国産で、母がカナダ産だから、明らかに別人が全きょうだいクロスを狙い撃ちで強調している(とくに息子の代で)。
母系のキモとなるのは4代前の父Search for Gold(通算5戦1勝)。ミスプロのひとつ上の全きょうだいで、おそらくは賢弟の活躍で二番を見込まれただけの愚兄?かも。しかし今回の場合、これがなんと正真正銘のゼロ活性で、母Gold Strikeに関してはアウトブリードが成立するというから驚き。母が競走馬として活躍できたのも納得がいく。
しかし息子Rich Strikeの代だとそうは問屋が卸さない(古い)。父Keen Iceの中では、Smart Strikeから後ろの直系先祖はどこも薄まっていないから、このままではやっぱりSmart Strikeの2×3クロスが成立し、世紀の大ヒーローは単なる多重クロス馬、という結論で終わってしまうだろう。
そこでひとつの疑問が投げかけられる。それはRich Strikeが母Gold Strikeのゼロ活性産駒ではないか、というものだ。
Rich Strikeは母のゼロ活性産駒なのか
たしかに父の活性値を今まで通りに見ただけでは、Rich Strikeの血の謎は解けそうもない。ところが先日ある読者さんが「Rich Strikeは母のゼロ活性産駒じゃないですか?」と質問を送ってくれた。
そこでゼロ活性の効果範囲を論じる前に、この母仔の正確な活性値関係をひもといてみよう。
まずは母のGold Strikeだが、彼女の誕生日は02年3月30日。ひとつ上の兄Copper Kidの誕生日が01年4月6日だから、母の誕生日の早まり具合から、高確率で母は「初回発情」で生まれたとみられる。
すると兄の誕生日の約10日後、01年4月16日あたりが母Gold Strikeの種付け日と推測できる。
次に息子Rich Strikeだが、母の産駒全体の傾向として
Unostrike 10.3.9生
ラナモン 11.3.20
…
Stoney Miss 15.2.22
J and J O’Shea 16.3.1
My Blonde Mary 17.4.10
…
Rich Strike 19.4.25
このように規則正しく? 産駒の誕生日が少しずつ遅れていることから、30日後の自然サイクル日周辺が種付けに活かされたと仮定すると、
11年産駒 予定日3.8 誕生日3.20 12日遅れ
…
16年産駒 予定日2.24 誕生日3.1 6日遅れ
17年産駒(②回目?) 予定日3.21 誕生日4.10 20日遅れ?
となり、母は平均10日ほど予定日から遅れて出産する傾向がある。これは個々の母に特有の傾向で、生涯通じてあまり変わりなく、現場では出産日の予測にも使うとのこと。
ということは、19年4月25日生まれのRich Strikeは、誕生予定日が4月15日付近だった、つまり種付け予測日は「5月15日付近」ではないかと推測する。(さらに18年は不受胎ではなかった=Rich Strikeは空胎後産駒ではない気も)
よって母Gold Strikeの予測種付け日 4月16日から 予測MAX活性期は 4.16〜5.14。
結論としては、息子Rich Strikeの予測種付け日 5月15日付近は、ギリギリMAXともゼロとも言える境界線上に位置しているようだ。
母のゼロ活性産駒は何がゼロなのか
詳しく調べた割には、肩透かしを食らった釈然としない結果で申し訳ないが、とにかくRich Strikeには母のMAX活性とゼロ活性、両方の可能性が残っている。
もし彼がMAX活性産駒であれば「スピードの恩恵も得られる特別な4週間」=真のMAX活性期に入っているから、あるいはこれが世紀の大波乱の原動力となったのかもしれない。
しかし、もし逆にゼロ活性産駒だった場合、母は彼になんの恩恵ももたらさなかったのだろうか。
ご質問をいただいた方の真意までは伺っていないが、私は今回「母のゼロ活性がもたらす意外な効果」を少し考えてみたくなった。つまり
母のゼロ活性では、母側のクロスの濃度が(ある程度)薄まる
という効果だ。
ここでもう一度Rich Strikeの血統表を見ると、実は母父Smart Strikeの活性値はわずかに0.25しかない。もし母のゼロ活性に、たとえゼロとは言わなくても、母系の活性値を0.25〜0.5倍に薄める効果さえあれば、Smart Strikeの活性は十分薄まり無害に、そして血統表上にはRaise a Nativeらのクロスが(わずかに)残る程度になる。
これならRich Strikeの激走も少しは納得いくのだが…。
ただここまでくるとさすがに都合が良すぎるよね。基礎的な父と母の役割分担説を崩すものだし、母系が活性に影響する話はあくまでロマンの域を出ない。
ただ世界を見れば「母のゼロ活性」をはねのけた名馬というのもけっこういる。私がぱっと挙げられる範囲では、安田記念などG1を2勝した父Nureyevの外国産馬ブラックホークがそれだ。
残念ながら彼の場合は、母系の活性値を薄めてもクロスはネアルコ1本程度しか減らないし、なによりゼロ活性産駒は、基礎体力値が大きく削られているデメリットがあることに十分留意しなければならない。ブラックホークも素質はあったが開花はずいぶん遅めの馬で、こういうタイプは若いうちに無理するとその花を摘むことになる。(Rich Strikeも早熟かもしれない)
私はここまで母のゼロ活性産駒をすべての推奨馬から外してきた。あまり丈夫でない子を他人に勧めることは避けたいし、またいくら今回の仮説が面白そうでも、多重クロスを消すためだけにあえて母ゼロ活性配合を高く評価することはない。実際の現場でも、たとえクロスがなくても母のゼロ活性期には絶対に種付けしたくないから、次善の策として空胎を勧めるだろう。
しかしこういう柔軟な仮説を持ち続けていると、いつかどこかで異なる理論の基礎になることはある。クロスの弊害を避けられる策が新たにできることは本当に助かるし、またこの世に出てきた母のゼロ活性産駒自体には罪はないのだから、産駒たちを最大限活かすことができる理論なら大歓迎だ。次の進展はもう少し「母のゼロ活性産駒名馬」を調べてからにしたい。
以上、独りよがりでご質問の答えにはならないかもしれないが、ちょっとエキサイティングな調べ物をした結果である。ご参考までに。
リッチストライクの見解ありがとうございます
非常に興味深い内容でしたし今後母ゼロ活性産駒にも注目したいと思います。
これからも自分なりに基準を作って一口出資に役立てたいと思います。
そしてオークス動画も拝見いたしました。
これからも小さな気づきがありましたら、またこちらにお寄せください。
ここまでの道のりは、みなこのような気づきから派生したものです。
まさかの展開で、思わぬ真実に近づくこともありますのでね。
ありがとうございました。
ナミュールは募集当時私のブログでも触れていましたが、母のゼロ活性産駒だったのでキッパリと候補から外しました。
それがこの活躍。
馬ってやっぱり難しいと痛感させられました。
ちなみに今年募集のサンブルエミューズ(メス・エピファネイア)も面白そうですよ。
そういえば社台サンデーG1の募集馬も正式に決まり価格も出ましたが、これが結構お高い。
年に何回も走らないのに価格だけは上がっていく‥
それでもセレクトセールに比べれば遥かに安いわけですから文句は言えないかもしれないですね。
ナミュールに関しては、基礎体力が母系全体でカバーできているのが大きいのかもしれないですね。
初回発情(自然)の表判定も今となってはいい感じだし。
にしても、今もって他人に推奨はできないんですけどw
まだまだ謎は深いです。
いよいよ私も2、3日前からサンデーRのリスト作り、始めましたよ。
確かにサンデーRさん、たっかいですね!
重賞ひとつ勝っても収支は差し引きでどうかという感じで、まさに夢幻の如くなり、ですね。
日本ではたまに見かけますがグレートレースの勝ち馬いますか?私は知りません。
日本馬の方は全然意識してなかったのですが、世界的名馬の方がたま〜に母のゼロ活性産駒、いますね。
ちょっとメモしとけば良かった…