▼サラブレッド生産の神秘に翻弄されて(1) 4.26

初めての生産現場情報にあたふたするドルメロ

各オーナーさんのご厚意により、今年は初めて「サラブレッドの生産」という領域に足を踏み入れることとなったドルメロ。しかもいきなり2頭の繁殖に対して違った角度から見守る、という状況下に置かれ、すでにもう3月末から胸のドキドキは止まらなかった。

幸いなことになんとか今日現在2件とも種付けが無事済み、うち1頭は受胎も確認できている。今回はその受胎済みの1頭について、オーナーさん向けの解説も含みながら、ここまでの経過をまとめておきたい。実名を出さないのでややぼやけた表現にはなるが、そこはご勘弁いただきたい。

まずは種牡馬の選定から

仮にこの繁殖牝馬を「ロリ」ちゃんとしておくが、ロリ号の簡単な現役時プロフィールは、地方競馬で大差勝ちの鮮烈なデビューを果たした後、連勝街道まっしぐらのまま遠征した重賞でケガをし、休養。その後は本来のスピードを取り戻せなかった未完の天才少女。

しかもロリちゃんの父は正真正銘のゼロ活性。配合的には母の血で走った女系馬で、スピードがある上に産駒の母父がゼロ活性だから精神面の安定を図れる期待がある。

ただ残念なことに、ここまで産んだ2頭の産駒はどちらも「裏」判定で、まだこの母の良さを本当に出すまでには至っていなかった。

そこでドルメロが考えた配合のキモは2つ。ひとつはもちろん今年こそ月のサイクルを「表」にシフトしておきたいということ、そしてもうひとつは、ロリちゃんが女系馬ということで、彼女の優先祖先が母系の深すぎる位置にいるため、産駒の優先祖先対象としては使えない問題を解消する必要がある。

女系馬の特徴として、母父や母母父の活性も低いわけだから、いっそのこと「父似」の子を作る方がデザイン的には好都合。ということで、今年は活性が6以上の父を中心にまず何頭かご提案した。

ところがここで事態が急転する。実は牧場サイドの方から「今年はこれでいきましょう」とある種牡馬に強いご推薦があり、なんともう「予約」までしてしまったとのこと。これには少し裏事情もあって、オーナーさんといえどもちょっと覆しにくい雰囲気が。

私はすぐに「それでいいと思います」とオーナーさんにお返事。牧場サイドには私の存在は知られていないので、オーナーさんを板挟みで困らせるより、このまま牧場側の熱意のままに事を進めるのが一番うまくいくと思ったからだ。

もっともこれには2つの幸運があった。ひとつはこのままお任せで進めていても、今年は月のサイクルが表の時期に種付けできそうだったこと、もうひとつはその牧場おすすめ種牡馬が偶然にも「MAX活性」馬だったこと。これで父似は確定だが、もし1回目のいい時期を逃すと父のゼロ活性になる危険もあることだけはオーナーさんにお知らせし、私たちは基本「待ちの姿勢」でいきましょう、とご提案。

そしてこの決断がのちに3つめの幸運を呼び込むのである。

22年産駒が無事誕生! いよいよプロジェクト始動へ

今年子馬を産んだ母の発情期はすごく計算しやすい。ロリちゃんは予定日より2日遅れの2月23日に22年産駒を無事出産。通常初回発情なら約10日後の3月5日頃がターゲットになるが、その種付け連絡はなかったので「きっと2発情目が勝負になるな」と読んでいた。さらにその後となればそろそろ父のゼロ活性期に入るっぽいし。

ここできちんとお話ししておきたいことがある。そう、自然サイクルの種付けをどうするか、だ。

私はロリちゃんの種付けを牧場サイドに一任する方針にしたときから「自然サイクル種付けはあきらめよう」と考えていた。それはオーナーさんに対して牧場サイドから丁寧な今後のプランが示されていたこともあるし、オーナーさんとも「月のサイクルが表に入る、父似の子を作るという2点だけでも十分進歩している」という気持ちでまとまっていたからだ。

牧場サイドからはもちろん「2発情目を早める(5〜10日)薬剤があるので、それを使って3月半ばに種付けしたい」との意向があった。つまり2月23日の30日後、3月25日から10日早めれば、もう3月15日が第一候補日になるということだから、きっと意外と早い段階で種付け完了のご連絡があるだろうと思っていた。

ところがである。2月中旬から待てど暮らせど、ロリちゃん種付け完了のご連絡がない。「おかしいな…これは4月に種付け持ち越しか? ロリちゃんに何かあったのかも…」などと心配ばかりが募る日々。こんなあたふたぶりではすでにアドバイザー失格なのだが、結局その後約2ヶ月音沙汰なしだったので、これはなにかイレギュラーがあったのだろうと腹をくくってご連絡を待っていた。

なんと待ちの姿勢で奇跡の「自然サイクル」降臨!

待ち望んだその一報は、4月18日の深夜に入った。

オーナーさんからメールがあり、前日の17日に、牧場から「受胎確認」の知らせがあったとのこと。よかった!待った甲斐があった! 一気に受胎確認まで進むとは思ってなかったけどw これでひと安心。ロリちゃんよくやった!

ニヤニヤしつつさらにメールを読んでいくと、ひとつ気になることが書かれている。

「…残念ながら初回発情は種付けできずに、4月1日(金)に○○を種付けしました。…」

ふーん4月1日か… んん? あれれ…? これはひょっとして…

「1日」というワードに即反応してしまうのは、もはやドルメロ体質?いや職業病か。そう、私はこのときすぐに種付け日の「4月1日」という日付に違和感を持ったのである。

牧場サイドでは「今年の種付けには薬剤を使う」とはっきり言っていた。でもこの日付はいくらなんでも、その薬剤サイクルからも外れていないだろうか…もしや2回目も…か?

この時点ですでに少しドキドキし始めているドルメロ。こんなメールが深夜に来たら、もう今夜は眠れまい。急いで仕事部屋のPCを立ち上げ、慎重にサイクルを計算すると、

「やっぱり! どう考えてもこれはぎりぎり自然サイクル種付けだ。しかも1日付けとは恐れ入った!」

計算的にはこういうことだ。2月23日の出産日から30日後の3月25日、これがいちおう「自然サイクル2発情目がくる計算日」になる。初回発情は母馬の体が戻りきっていないこともあるから、通常はこの30日後自然サイクル日を目指して、母体の様子を見ながら種付け日を決める。

しかし卵胞の育ち具合(気候、栄養状態なども関連)によってはこの3月25日から少し遅い時期がいいこともある。薬剤はもっぱら発情を早める効果だけなので、逆に自然サイクル計算日より遅い種付け日は、かなりの確率で「自然ぽい種付け行為」をしている可能性があると読むわけだ。

今回の場合だと、3月25日を起点とし、それより3日以上早い種付けは「薬剤ー①」、−3日から+8日まで=3月22日から4月2日までが「自然①」、それ以上が再び別の薬剤サイクルの可能性「ー②」が高くなる。

よって今回の種付けは、いつもの月の評価でいくと3月25日+7日になるので、「自然①+7」と表記し、しかも母の月のサイクルが表で確定「A」かつ「1+7X日に該当する1日種付け」だから、生まれてくる子の新・月の評価は「A」→「S」に昇格する。

ちなみに母ロリちゃんは初回発情(自然)生まれなので、もし来年牝馬が生まれると、その評価は「2代にわたる母系爆発現象」でさらに「S+」に跳ね上がる。わーお。

しかしどうしても確かめておきたいことが

すっかり寝る気がなくなったドルメロだが、少し気になる点もあった。それは薬剤の2回目発情日もまたその頃に来る可能性が残されていることだった。

もし3月15日頃に一度薬剤種付けに失敗していれば、2回目の薬剤サイクル日は21日後の4月5日から10日早めた3月26日頃から訪れる。1回目の日にちによっては、今回の4月1日種付けあたりは、すごく怪しいドンピシャの2回目薬剤日になりはしないか…。

ただ悲しいことにこればっかりは自分で確かめる術がない。一夜明けて私は、オーナーさんにお願いめいたメールを返信することにした。今回、薬剤のお話をしてくれたのは牧場サイドである。そこでオーナーさんに「今回はお話にあった薬剤は使わなかったのか」と牧場に聞いてみてほしい、と回りくどいお願いをしてみた。

オーナーさんも「それはすごく気になる」とのことで、さっそく牧場側へ連絡してくださり、あらためて翌日届いたメールが「ビンゴ〜!!! すごすぎっ!!!」というスゴい書き出しのお返事w この返信で今度は直接牧場サイドから、薬剤を使わず「自然サイクル」で種付けしたこと=自然①+7日までは自然サイクルと言ってもいいのではないか説が、ここに証明されたのである。

今回牧場がロリちゃんに薬剤を使わなかった理由は、いろいろある。

教えていただいた事からは、まずロリちゃん自身の受胎率がいいこと。そして子馬が予定日より大きく遅れて生まれる年がなかったこと。1年1頭生産が命題となる牧場サイドにとっても、彼女は実に扱いやすい繁殖牝馬なのだ。(もちろんお母さんとしても子煩悩で優秀とのこと)

ふたつめに、今回は牧場サイドでも、できれば薬剤を使わないで受胎させたい意思があったこと。ロリちゃんが優秀ということもあるが、他方で薬剤そのものの連続使用で今後効きにくくなるケースを心配されていた。

私も「1シーズンに2回の薬剤使用が推奨されていない」ことは承知していたが、経年的にも効果が薄くなることは初めて聞いた。もともと誘発剤は「ウマ由来」物質ではないので、多用すると抗体のようなものができると文献で読んだことがある。つまり誘発剤をウマ体内で異物と感知されてしまうことで、本来の効果が出にくくなるのだろう。

ともあれ、こうして二転三転の種付け作業は、成功裏に無事幕を降ろしたのである。

サラブレッド生産はうまくいかないことの連続

この件は初年度の話のひとつとして、またオーナーさんと情報共有の目的もあり皆さんにご報告したが、もしこれが5頭、6頭…と件数が増えていったら、とてもじゃないがドルメロの頭が保たない感じ。なぜならサラブレッド生産には、本当に思いもかけない出来事が待ち構えていて、計算ずくで進められる事柄なんて、ほんの1%にも満たない領域だからだ。

実はそのことを身をもって実感したのがもうひとつのご依頼案件であり、それはまた後日、可能なら少しご報告できたらと思っている。むしろそちらの方が勉強になるケースなのかもしれない。

▼サラブレッド生産の神秘に翻弄されて(1) 4.26」への3件のフィードバック

  1. スレ違いのコメント失礼致します。
    ケンタッキーダービーの勝ち馬リッチストライクは母Gold Strikeのゼロ活性なのかなと思いました。結果論ではあるんですが、ドルメロさんはどう思われますか?

  2. 今まで「薬剤」や「自然」や「初回発情」などについてずーっとお話してきましてが、私にとっては全く身近ではなくゲーム感覚に近いような感じでした。

    それが今回は実際のお話が聞けて初めて身近に感じた気がします。

    ドルメロさんさらっと書かれていますが(そんなことはないのでしょうが)、実際にある牧場の具体的な種付けのお話は超貴重です。

    ありがとうございました。

    来年ロリちゃんの仔が無事に産まれてることを願っています。

    1. 私は逆に「ウイニングポスト」「ダビスタ」等の競馬ゲームが実際の現場に近づいてしまって、全然楽しめません。
      血統表にない年数を探したり、活性を数えたりと…これはもう明らかな弊害ですわw
      とにかく無事が何より。また少し来年の楽しみができました。

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