▼社台Fの夜明け 70年代考察 ノーザンテースト以前のスピード戦略 3.17

※これは3月17日YouTube動画の台本原稿です。

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こんにちは、ドルメロチャンネルです。
さて今回は1970年代、まだ躍進する夜明け前だった社台ファームを例に取りながら、種牡馬とスピード因子に関する最後のまとめをしていこうと思います。

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この動画は牝馬クロスとスピード因子シリーズのエピローグだと思っていますが、本当のところは次の企画として考えている種牡馬シリーズの冒頭につなげたい内容でもあるんです。

なぜかといえば、過去に大成功した種牡馬の陰で、オグリキャップでもメジロマックイーンでも、期待されながらそこまで達しなかった種牡馬たちにいつかスポットを当てることになるから。

その失敗の理由を血統面から考えるときに、今回の動画がきっと必要になると感じて作ったものです。

よってこの動画は次回シリーズへの橋渡しのようなもので、過去の内容を確認する場面も随所に出てきます。概要欄にリンクも貼っておきますが、その点ご了承いただきながら楽しくご覧ください。

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そんなわけでまずは、以前牝馬クロスシリーズでお話ししてきたことを簡単にまとめますと、

まず血統表のクロス、インブリードというものは、すべて牝馬のクロスとして考える
牡馬のクロスもその母のクロスとして生きている。
つまりクロスの効果は、100%スピードアップなのだろうと。
ダビスタみたいなその他の効果はないよ、と私は考えています。

そして、牝馬のスピードというものは、劣性の種牡馬を種付けされているうちは代々娘に遺伝され、少しずつ蓄積していくだろうということ。

将来どこかで優秀な優性の父が配合され、名馬として爆発するまでは溜まり続けるのかもしれないということですね。

このあたりをふまえながら、いよいよ夜明け前1970年代の社台ファームを考察していきましょう。

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1970年代の社台ファーム。
当時の日本競馬は番組的にもまだクラシック、天皇賞の名誉を中心とした考え方が主流で、生産馬にスピード因子を入れてそれを育てようという概念は薄い時代でした。

社台でも62年に繋養されたガーサントが70年にリーディングを獲るなど、種牡馬ビジネスでいちおうの成果はありましたが、70年代前半に導入したこれらの種牡馬、バウンテイアス、ヒツテイングアウエー、エルセンタウロらはまだどうなるかわからなかったし、実際どの馬も現役時の適性は芝やダートの長距離にあったわけです。

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1969年、ついに社台は初めて念願のクラシック勝利を手にします。
それがこのシヤダイターキンによるオークス制覇でした。

父ガーサント、母ブラツクターキンという血統。優先祖先のルートはいくつか考えられますが、とにかく父ガーサントが高い優性期ですからその影響が大きいことは一目瞭然。

ガーサント産駒が勝ちそうなクラシックとしては、オークスというのはごく自然な結果だったといえます。

言い換えれば、当時の新興生産者たちがまず結果として得られる可能性が高かったのは、こういった長距離戦の勲章であったはずで、生産馬がいきなり初めからスプリント重賞で大活躍するということは、牧場の方針からしてもあり得なかった時代でした。

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もちろん社台においてもそれは同じで、70年代前半にこの3頭の導入種牡馬が出した代表産駒は、いずれも筋金入りのステイヤー。

とくに障害戦での強さはケタ違いで、この時代の社台の屋台骨を支えていた一端はまぎれもなくこれら障害馬の活躍だった。このことはオールドファンにもよく知られているところです。

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ただし社台は、そんな現状にいつまでも浸っている生産者ではありませんでした。

名門メジロがますます長距離路線に傾倒していったのとは対照的に、一転スピードという新機軸を追い求めて、ある1頭の1歳馬購入に牧場の命運を託すこととなります。

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ここでちょっと視点を変えて、1970年代当時、日本の短距離競馬界は実際どうなっていたのかを見ておくことにしましょう。

これはグレード制導入前からのスプリンターズS勝ち馬を何頭かピックアップしたものですが、この当時の短距離界をリードしていたあるオーナーさん、それが冠名「サクラ」でおなじみのさくらコマースさんでした。

74年、75年にサクライワイが連覇、その後も80年にはサクラゴッド、翌年81年にはサクラシンゲキが勝つなど、短距離界では群を抜いて素晴らしい成績。

その後も社台ファーム産のスプリンター牝馬を所有しながら、ついに日本最強スプリンターの1頭、サクラバクシンオーのオーナーとなっていくわけです。

この70年代に生まれたスプリンターたち。実は血統配合上にある共通点が見られます。

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まずはサクライワイです。

父は欧州のスプリンター、マタドアで、ミオスタチン遺伝子こそC/C型でしょうが、活性はミニマムなので優先祖先は3代前のダイオライトへと遡ります。

ただ母父のハロウエーがゼロ活性ならば、PhalarisやBromusといったクロスを弊害なく活かし、これをスピードにうまく昇華した可能性も考えられます。

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つづいてはサクラシンゲキです。

父はこれまた欧州のスプリンター、ドンで、これもミオスタチン遺伝子に影響を与えてはいますが、活性値が劣性の2なので、形は3代前のユアハイネスへと遡ります。

ただ本馬も父母ともにゼロ活性が疑われる箇所がたくさんあるおかげで、うまくいけばネアルコのクロス1本が気になるだけで、あとはクロスを優秀なスピードに昇華させた可能性が十分考えられます。

つまり70年代当時のスプリンターは、父の形の影響をさほど受けずむしろ劣性である良さを活かして、多くのクロスを弊害なく昇華する配合でスピードを得ていたと見られます。

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ただしいま紹介したサクラの2頭の父は劣性ではあったものの、短距離馬だということには違いありません。

そこでもう一歩踏み込んで、今度は父が短距離馬ではなくステイヤーの劣性期に変わってもこれと同様の配合でスプリンター産駒は望めるものなのでしょうか。

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実は社台ファーム千葉時代に生産されたこのハイプリンスという馬。
本馬がその一例となる馬です。

父はガーサントですがミニマム期。よって優先祖先は母の中でもいろいろな方向がありそうですが、ひとつの可能性として母父と4代父がゼロの可能性があるので、残るはBroomstickつまりは遠いアメリカンダミーの形に遡ることもあり得ます。

そのためか実際このハイプリンスの勝ち鞍の中には、京都のシンザン記念に加えて当時札幌ダ1200で行われた北海道3歳Sが含まれています。
ダートの短距離に適応できる形がどこからか来ていたことは間違いなさそうです。

もし母父のArdanがゼロ活性なら、本馬も父の劣性期かつクロスの弊害なくスピードに昇華する配合であった可能性が高まります。
よって配合システムの理論上は、サクライワイやサクラシンゲキとも共通しているといえそうです。

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また日本産馬ではありませんが、欧州には父バウンテイアスのスプリンター産駒も存在しました。

バウンテイアスが欧州に残してきた唯一のG1馬、それがこのアベルグオーンです。
(呼び名はウイニングポストに準拠しています)

本馬は英国の5FG1キングズスタンドSを勝った一流馬で、見事な父バウンテイアスのミニマム期産駒。
父か母内のゼロ活性次第では、Gainsboroughのクロス弊害がなくなり、スピードに昇華した可能性があります。

バウンテイアスは日本ではたくさんの優秀な障害馬を出しましたが、平地で一番の出世馬が欧州のスプリンターだったというのは何とも不思議な話ですね。

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それではもっとイジワルな質問をしてみましょうか。

今度はステイヤー種牡馬の優性期祖先を含みながらも、今までの理論でスプリンター、あるいはマイラー産駒は誕生するものでしょうか。

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その一例となるのが、このギヤロツプダイナです。

70年代の終わりから社台ファームでは、いよいよノーザンテーストのゼロや劣性期を使うことで、ステイヤー種牡馬を優性の父に持つ牝馬からでも、見事に一流マイラーを生み出しました。

しかも中には本馬のように、そのステイヤーの存在こそが優先祖先だという馬もいます。

このギヤロツプダイナは父ノーザンテーストのゼロ活性産駒であり、優先祖先は母父のエルセンタウロを遡ります。

母系には他にBold Ruler、To Marketの名もありますが、どちらも王道のダート10F路線の馬であり、遺伝子的にみても、母のアスコットラップにさほどスピード因子を与えているようには見えません。

もちろんギヤロツプダイナといえば、やっぱりあの天皇賞(秋)で無敵のシンボリルドルフを破った馬ですから、純粋なマイラーではないかもしれません。

ただエルセンタウロの形を持ちながら、ダートの千二、そして芝の安田記念の勝ち馬を出した事実、そこにはやはり父のゼロ、劣性期に伴う配合の妙、スピード因子の上手な活かし方が隠れていると思います。

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もう1頭、81年のNT産駒ダイナシユガーも見ておきましょう。

本馬は3歳時に桜花賞トライアルの7F、報知杯4歳牝馬特別を、また5歳時には当時芝の千二だったBSN杯を勝っています。

血統的に見ると本馬は父ノーザンテーストの劣性ミニマム期産駒。この世代はゼロ活性ではないものの、父ノーザンテーストと合わせてミニマム種付けが2代続いたことから、N.D.以前の祖先の活性値がすべて0.125以下になり、どのクロスの弊害も受けません。

そして肝心の優先祖先が母父ヒツテイングアウエーを遡った先にあるWar Admiralあたりと推測され、ここでも種牡馬としてはパッとしなかったはずの形が使われていますから、配合理論上はサクラのスプリンターたちにもよく似た方向性が見てとれます。

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種牡馬ノーザンテーストとサンデーサイレンスの決定的な違い、それは初期産駒たちの距離適性です。

左はノーザンテースト初年度産駒の新馬勝ち条件、右はサンデーサイレンス産駒2年目の重賞勝ち馬一覧です。ノーザン、サンデーどちらも遺伝子的にはC/T型の競走馬かと思われます。

ここでは傾向を強調するため、あえて同じ世代のデータを取っていませんが、私が言いたいことは、初年度にありがちな「ほぼ思惑なしのポン付け配合」であっても、これだけ距離適性に違いが表れるということ。ノーザン産駒がほぼスプリンター、サンデー産駒がほぼ中距離馬なんですよね。

これは当時のレース体系の違いもありますけど、一番大きな理由はずばり「クロスの有無」なんでしょう。

単純にサンデーの初期配合名馬にはクロスがうんと少ない。
アウトブリードのままバンバン走りますけど、その代わり初期に短距離をこなすスピードは付いてこない。
これは以前動画で話した、元調教師の白井先生も指摘していることです。

いっぽうノーザンテーストには素の配合でネアルコやアルマームードなど多様なクロスがデフォルト搭載されます。初期からスプリンターを出せるか否かでいえば、この差はものすごく大きい。

クロスの発生は明らかにスピードを産み、その結果産駒の距離適性は短くなります。
この辺はニワトリと卵の関係かもしれないですけど。

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まとめておきましょう。
私が考えるスプリンターを生み出す理想の配合条件とは

(1)父の劣性期でまず父方のクロスを弊害なく使いやすくしておく

(2)優先祖先は、短距離馬に関しては極端な話、なんでもいい

T/T型でも、欧州系でも、全くの無名の存在でも、なんでもいい
エルセンタウロでもヒツテイングアウエーでも、たとえ一時でも形として使われた時代があったなら、その種牡馬導入は決して失敗ではなかったということ。

何なら優先祖先がこういう(柔らかい足元の)欧州系やステイヤーであれば、クロスが生み出すスピードをよりうまく馬体に吸収してくれる可能性が高いし、逆にダート系や短距離系の(堅い)足元だと、いくら弊害が少ないとはいっても、ケガの危険性が高まるかもしれない。

この辺は以前にもアドマイヤムーンの産駒傾向でお話しましたね。

(3)可能なら弊害無しで、必ず牝馬クロスを導入する

(4)できれば代々劣性の種牡馬で蓄積した母系の牝馬スピードをもらいたい

以上の点から、私は優れたスピード馬の生産には配合の時点でここからいくつかの理論を詰め込む必要があるだろうと思っています。
寝ていて待てるのはステイヤー産駒だけ。たとえその種がサンデーサイレンスであろうと何であろうと、です。

そして、もうひとつ。

初期の産駒からクロスを生じかつ容易に短距離馬が出てくる種牡馬、ノーザンテーストのような存在は、実は「形」が評価された種牡馬ではないということ。

いずれその形は淘汰され、劣性の時に配合へ混ぜることを強要される「スピードの種」に役割が変化します。

逆にサンデーサイレンスやセフトのように、初期からアウトブリードでバンバン走る馬を出す種牡馬、これこそがその国の競馬界を席巻するゲームチェンジャーであるということ。

彼らは本質的に「形」そのものが評価されるので、何代にもわたって形の遺伝が継承されます。

生産界は今後も第二、第三のサンデー探しに躍起となるのでしょうが、皆さんはこういったポイントで種牡馬と産駒1頭ずつを見ていけば、巷の間違った評判に戸惑うことはなくなるはずです。

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牝馬クロスシリーズのエピローグ、夜明け前の社台ファーム考察動画 いかがだったでしょうか。

シリーズの最後まで「信じるのはあなた次第ですよ」みたいな怪しい内容でしたが、楽しんでいただけましたか?

でもこの話を今度は現代、しかも今日明日という直近の生産現場で考えたとき、興味深い種牡馬が1頭いるんですよ。

2歳戦から絶好調で飛ばしている評判のあの馬、ね。
いずれ時を改めてお話ししましょう。

長々と今シリーズにお付き合いいただき、ありがとうございました。
次の種牡馬シリーズもどうぞお楽しみに。

それでは、また。

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