推薦の前にモーリスの血統的背景にふれていきます。
また当歳馬ピックアップに関しては、今回と次回のリオンディーズ編の新種牡馬2回をもって終了とさせていただきます。
他の新種牡馬産駒には推薦馬がいませんでした。
モーリスってどんな馬?
▼モーリス 牡7
父 スクリーンヒーロー
母父 カーネギー
2011年3月2日生まれ 鹿毛
優先祖先 Mountain Flower(1964・牝)
適性馬場・距離 芝のマイル〜中距離
基礎体力 38(平均50)
モーリスの父スクリーンヒーローは、祖父グラスワンダーのゼロ活性産駒(9歳3か月)であり、自身の栗毛は祖父のものではありません。
まずここを理解してから先に進まないと、いつまでたってもグラスワンダーの幻影から逃れられません。
よって父スクリーンヒーロー自体は優性期の種牡馬ですが、祖先探しはその母ランニングヒロイン〜サンデーサイレンスへとたどることになります。
計算では5世代目が優先と出ますので、劣性種牡馬を避けながら進むとMountain Flowerという1頭の牝馬にたどり着きます。
Mountain Flowerは、ここまで何度も登場したサンデーの母Wishing Well(1975)の母です。
通常ですと、種牡馬が優先ならその実績を見れば適性がわかるのですが、母、とくに競走成績が貧弱な牝馬は再び「その牝馬の優先祖先」を見た方が早いです。
Mountain Flowerの父Montparnasse(1956・優性期)はアルゼンチン産馬で、芝の重賞勝ち馬を何頭か出している程度の成績。
ですがそのまた父Gulf Stream(1943・中性期)は英G1エクリプスSなどを制した一流の芝馬でした。
よってモーリスの適性は芝のマイル〜二千あたりにあるだろうと推察されるわけです。
ちなみにGulf Streamの父は栗毛の大種牡馬ハイペリオン(1930)です。
これがあとで妙なところへ効いてきます。
さて再び現代に時計を戻して…
スクリーンヒーローは栗毛ですが、その仔モーリスは鹿毛です。
よってモーリスは「栗毛の因子も隠し持った鹿毛馬(ヘテロともいう)」になり、産駒に(優性期でも)栗毛が出て何らおかしくない種牡馬です。
このスクリーンヒーローの栗毛因子はどこからやってきたのか調べると、実は彼から優先祖先であるMountain Flowerまでの5代には、栗毛の因子が全くありません。
ダイナアクトレスの父ノーザンテースト、Wishing Wellの父Understanding(1963・栗毛)も劣性です。
そこで先ほど同様もう少し祖先をさかのぼると、あのGulf Streamの父ハイペリオン(栗毛・もちろん優性期)が再びクローズアップされるのです。
直仔Gulf Streamの体内には、父ハイペリオンの栗毛因子が隠されています。
しかし自身は鹿毛馬であり、また栗毛因子は子孫に1回も発現することなく、こうして2003年まで時が経ちました。
スクリーンヒーローの種付け時、血統表には
グラスワンダー(ゼロ活性)
ノーザンテースト(劣性期)
モデルフール(劣性期)
と見事に劣性期の種牡馬ばかり並び、毛色の決定権はサンデーの祖先だけが持つことになりました。
栗毛は特殊な毛色で、因子を持たない種牡馬からは絶対に出ない毛色です。
いつもはもっと強い優性期鹿毛系統の因子などと複数争って(確率的に)負けてしまったのでしょうが、このときばかりは発現確率が50%、つまり「他の色か栗毛かの半々」にまで高まったわけです。
スクリーンヒーローの栗毛は、こうした血のドラマが70年以上続いてついに開花したものだったのです。
もうひとつ。モーリスの基礎体力が名馬にしては異常に低い点ですが、8年サイクル同様、基礎体力は年齢とともに少しずつ上昇し、年を経るごとに丈夫になります。
同年代で測ればいつまでもライバルとの差は縮まりませんが、異世代間ならやはり少年期より青年期が優勢です。
モーリスの成績をひもとくと、休み明けにめっぽう強く、逆に叩き2戦目がいい馬ではありませんでしたので、その特徴がよく出ています。
若い頃の考えられない足踏み状態は、まだ本当の体力がついていなかったせいもあると思います。
名馬にはキタサンブラックのような体力の鬼タイプと、モーリスのようなスピード&ちょい弱タイプがあり、後者は若い頃に無理をすると現役寿命が縮まります。
レース後すぐに短期放牧、なんて馬も後者に属します。
5代母 メジロクイン 57年5月20日生
4代母 メジロボサツ 63年5月12日生 ○
3代母 メジロクインシー 81年7月1日生 ×
2代母 メジロモントレー 86年4月25日生 ×
母 メジロフランシス 01年3月18日生 (○)
モーリス 11年3月18日生 ○
3代母メジロクインシーはなんと8月の種付けで授かった馬!
これだけ見ても、かつてのメジロ牧場には季節にこだわらず牝馬の本当に良い発情期を見抜く「達人」がいたことがわかります。
そうそう、8月種付けの天皇賞馬のお話、ご存じですか?
フフ、長くなりますので、またの機会に。
推薦馬紹介は簡潔に行います。
スピードの源は違うが良い素材に間違いない
▼No.307 メチャコルタの18
18年2月5日生まれ 牝 鹿毛
父 モーリス
母父 El Corredor
【診断結果】
・優先祖先 Never Bend(1960・鹿毛)
・馬場、距離適性 芝のマイル
・基礎体力値 50(平均50)
・頭脳 普通
・総合 ★★★(満点は5つ)
スピードの源は母父El Corredor(1997・ミスプロ系)からたどったNever Bend(Mill Reefらの父)という大種牡馬由来になります。
それは母系がアルゼンチン産だから(ヘンに聞こえるでしょ?)で、結局種付けが北半球より半年遅いので生じるわずかな活性差が主役をモーリスからEl Corredorに変えてしまったのです。
またそのおかげで3代父Lucky Roberto(1996)はゼロ活性となり、Danzig(つまりNorthern Dancer)クロスが1本消えているのですが…。
同様にRobertoのクロスも前述のグラスワンダーのゼロ活性で消えており、クロス面になんら問題はありません。
母の初仔でもあり、数値以上に丈夫なはず。
スピードを生かした活躍が見込めそう。
モーリス産駒ではイチオシです。
こちらは正真正銘モーリス系栗毛産駒だが祖先は遠い…
▼No.355 ショウナンアクトの18
18年2月17日生まれ 牡 栗毛
父 モーリス
母父 フレンチデピュティ
【診断結果】
・優先祖先 Montparnasse(1956)
・馬場、距離適性 芝のマイル〜
・基礎体力値 59(平均50)
・頭脳 やや心配
・総合 ★★(満点は5つ)
これが前にご説明しておいた、モーリスの栗毛産駒例です。
ですから優先祖先も説明通りのGulf Stream直仔、Montparnasseになります。
スピードサイクルは理想的ですが、サンデー4×3はじめ活きているクロスが多くて、精神面でのケアが必須です。
母系は特に強いクロス残存があり、今までのどの産駒にも響いているはずです。
しかしサンデーのクロスを持つ仔がほんと、多くなりましたね。
もうすぐトップテン圏内の馬たち
▼No.417 バブルファンタジーの18 牝 鹿毛
これもショウナンアクトの仔同様、Mountain Flowerの系統が優先の芝マイラーでしょうが、ちょっとスピードが足りなくて、ダートや中距離に転身する可能性もあります。
母系「バブル」一族の長所である基礎体力の高さは66と維持できています。
セレクトセール特集最終回は、リオンディーズの当歳を取り上げます。
リオンディーズも字面以上に、ちょっと変わった馬です。