▼父似母似とは実際こういうことなのか

年末のご挨拶も済んだのにちょっと気になって

実は今朝、例のオーナーからご連絡があった。すでに数日前、私は宿題だった過去の配合についても感想を述べさせてもらい、それを結論としてExcel形式にまとめ、表として提出していた。

その宿題の中に、今度処分が決まった1頭の繁殖について、ドルメロなりの意見を聞きたいという件があった(ここまでは皆さんにもお話しした)。ただ前回の連絡では本当の詳細まで伺っていなかったので、私としては血統表から見えてくるいくつかの心配事をご指摘したのだが、今回伺ったところによると、実はその母馬、3年連続して「体に欠陥のある」仔を産んだのだという。

いや欠陥というのは言い過ぎかもしれない。というのはその仔馬の異変は「プロが見ても外観からは判別できない」レベルの軽微なものであり、さりとて動かしてみるとやはり気になってくるという「一番やっかいな症状」らしいのだ。

ドルメロ流にとって、馬の形といえばそれは「父の影響」もっというと「優先祖先の影響」である。馬の形に3年にわたって同じ症状が出てくる……ということは……。

私は連絡を受けてすぐに調査してみた。その母は誰もが知る名馬の牝系を継ぐ馬で、優先祖先もその母系の奥深くにあると見た。ということは……。

実は母が最近まで産んだ産駒3頭ともすべてが「母似」だったのである。

じゃあこの超有名な名馬はどうだったかというと、かたち上、その母系の影響を受けない「父似」の産駒だったのである。

実例でお話しできないため、わかりにくくて申し訳ないが、同じ3代母、4代母を起点とするファミリー内で、片方は直接付けた父の形を強く継いで大成し、そこから3代4代経った母似の馬たちが、何か問題を抱えながら生まれてきた……。

私はこの現象にやや戦慄のようなものを覚えながら、あくまで一意見としてオーナーに再度ご報告した次第である。

昔はよく耳にした「似た子が走る」

この話を伺って真っ先に思い出した古い話が、種牡馬マルゼンスキーだ。

彼の産駒に関しては、走る馬はほとんどが父の脚同様「外向」であったと言われ、脚が曲がっていない馬はそれだけで「走らない」と言われてしまったという何とも不可思議な昔話が残るが、しかし今あらためて調べてみると、マルゼンスキーは74年産なので

サクラチヨノオー 85(年生)
レオダーバン 88
ホリスキー 79
スズカコバン 80
ニシノスキー 80

これらG1(相当)勝ち馬の中には「父似馬は1頭もいない」ことがわかる。

ホリスキーら優性期の産駒でも母内にもっと活性の高い祖先がおり、形はその古い祖先を引き継いでいる。よってチヨノオーもレオダーバンも足元が弱い馬ではあったが、それは父マルゼンスキーだけのせいではないと言えよう。

あえてJBISのマルゼンスキー重賞勝ち馬産駒中から「父マルゼンが優先になる馬」「足元が弱かった馬」の候補を探すと、秋の天皇賞馬ネーハイシーザーを出したサクラトウコウ(函館3歳S、七夕賞勝ち)は該当する可能性があるけれど。

そしてこういう昔の謎は、来年動画でやりたかったのよね。

私たちは何を教訓とすべきか

今回の件に関しては、オーナーサイドとしても何か結論を得たわけではない。やっかいな症状の出やすい母が淘汰の対象となるのは仕方のないことだし、以前の配合アドバイザーも「馬体を見て配合を決める」タイプだったとのことで、よくよく考えられての組み合わせだから、そこは私たちが「何をか言うことがあろうか」という領域だ。

ただ私たちはこの一件を経て、たとえばクラブ募集で上のきょうだい産駒に顕著な、特徴的な身体的問題が出ていたら、とくにそれと同様の系統をたどる「母似馬」については(どんなに馬体がよろしくても)そういう事故があり得るということを知っておかなければなるまい。逆にこれは父似産駒の特典なのか……?

そして父似や母似という概念を持つ私にとっては、配合の前に上のきょうだいの様子を知る、知った上でそれを避けるのか、あえて受け継いで形の優秀さを取るのか(避けるだけでは良駒は生まれないと思うし、それはオーナーも指摘されていた)という決断をしなければならないのだ。

本当によく勉強されているオーナーは「もし父にも母にも問題がありそうなときは、父の欠陥を採るか母の欠陥を採るかという苦しい選択さえ必要になるのではないか」「欠陥を打ち消す配合があったらぜひ考えなくては」とおっしゃっている。的を射たご発言だ。

そういえばテシオ翁は「父と母は性格が異なる馬の方がよい」など、融和や打ち消しによる配合効果を認めている馬産家だった。私たちもその方向性で新しい知見を積み重ねなければ。

今回現場におじゃまするにあたり、あらためて真に「現場に即する」という意味合いを学ばせてもらった一件だった。

▼父似母似とは実際こういうことなのか」への6件のフィードバック

  1. ドルメロさん、こんにちは。
    今年も1年間、ブログに動画に、たくさん楽しませて頂き、ありがとうございました。

    今年は競馬を通じて、様々な考え方や思いに触れ、自身も出資馬の動向に一喜一憂しながらも少し成長出来たかな?と感じています。

    現場が見えない、見せない部分があるのはメーカーで働いているので通じる部分もありますが、その部分がすっぽり抜け落ちた見方は避けなくてはならないと思います。
    いくら自分が出資しているからと言っても、そのおかげだけで馬が走るようになる訳ではないですし、今年は特に複雑な状況だったので、現場の方々の苦労は計り知れないと思います。
    何より1年間、競馬を当たり前に楽しめた事を感謝したいです。

    ツアーや見学などで生産者の方々と直に話をする機会がなかなか持てないのは寂しい部分もありますが、それは今後のお楽しみという事で。

    2021年は種牡馬に注目して、また1年間どっぷりと競馬を楽しんでいきます。

    1. ピーヤさん、1年間広報活動ご苦労さまでした。

      今年一番大きな競馬の話題は「競馬ができたこと」でしょうね。
      なによりステイホーム下での娯楽として認められたこと、興行そのものとしてスターホースの歴史的頑張りがあったこと、競馬がこんなにポジティブに捉えられる時代は久しくなかったと感じます。

      ならば私たちも競馬を通じて、これからも楽しい話題作りに励んでいきたい……。
      どうぞ、来年もお力をお貸しください。

      私もねぇ、ツアーだけと言わず、いつかはセールにも行ってみたいですねぇw

  2. 今年も大変お世話になりました。

    ありがとうございました。

    今年は特に動画が充実されてましたね。

    ブログ派の私としては少し寂しい気持ちもありましたが、動画を拝見するととても分かりやすいんですよね。

    同じことをブログでとなると難しいと思いますし、私も認めざるを得ませんでした笑

    来年はいよいよ有料コンテンツですね。

    楽しみにしています。

    1. わにさんには1年通じて応援いただき、ありがとうございました。

      いま文章コンテンツを読む層が、どんどん高年齢化、高学歴化しているそうです。
      某ホリエモンさんなどは「そのうちに文章は偏差値60以上の人しか読まなくなる」という予測もしているようで、すごく寂しいことです。

      しかし動画のインパクトはやはり大です。
      「一見にしかず」とはこういうことか、と毎週感じていました。
      そうです、私も認めちゃいましたw

      来年のYouTubeはごく平常運転に戻し、文章を書くスキルをこれ以上さびさせないよう、修行します。
      どうぞよいお歳を。

  3. 確かベガも足曲がってましたよね。馬産の現場は常に弊害との闘いなんでしょうね。一般競馬ファンはそんな事夢にも思ってない方結構SNS上に居ますもん…
    言っても理解して貰えない。
    実に興味深い内容です。

    1. 昔の優秀な調教師は脚が曲がっていることをさほど気にしませんでした。
      それには優秀な蹄鉄師などがいたせいもあるでしょうが、カバーするノウハウが段違いに多かったのかも。
      見た目で嫌われる「曲がったキュウリ」みたいな例を思い起こさせます。

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