▼いよいよ自然・薬剤論争の本丸に突入するドルメロ流 〜まえがき〜

ここに至るまでの長い道のり

YouTubeチャンネルを始めて以来、プロアマ含め様々な方と交流させていただいたが、その中にはドルメロ理論の肯定派も否定派も同じくらい存在したと感じている。

否定派の方々が最も声高に主張されるのが「薬剤を用いた今のサラブレッド生産方式ではテシオ理論は使えない」ということだった。私はテシオ理論の真偽を確かめるところからスタートした人間なので、ガチの擁護派ではない。しかし生物の営みとして「薬剤を使うということは、自然のサイクルを一部壊していることに他ならない」という事実はよくわかっている。

ただ薬剤を用いたからといって、数十年前と現在とで最強馬の定義が変わったり、名繁殖牝馬の功績が変わったりしているかというと、そんなことはないだろう。今日も現代風のやり方で伝説の名馬に負けない優駿が生まれ、ターフを賑わしている。

問題はそこにテシオ理論の入る余地があるのかということだ。実はもっと早くから……そうチャンネルを始める頃にはもう……自分は自然サイクルで生まれている馬と薬剤っぽいサイクルで生まれている馬の区別がついていた。コメント欄にそう返答したこともある。だからこれらの馬たちの挙動は基本、分けて考えなくてはならないし、またそうすることで「新・テシオ理論」への道が開けるとも思った。ただ何をどのように分けたらいいのか、そこがいまいち確信を持てなかった。

そのため、少しあいまいな定義のまま今日まで皆さんを引っ張り回してきたことは否めず、大変心苦しく思っている。本来ならこの論争に決着を付けてから発展形へと着手するのが道理だったと思う。

しかし先日読者さんからのご質問にお答えしていくうちに、私の中でついに何かがひらめいた気がした。ああ理論の故郷に帰ってくれば良かったのだ……という想い……一周回ってまたこのトピックに帰ってきましたね、でも今度の帰郷はお土産がありますよ、みたいな感触で。

薬剤を用いると馬はおかしくなってしまうのか

ひとつ明らかにしておかなければならないことがある。それは薬剤を用いる生産法が繁殖牝馬にその後も回復不可能なダメージを与えてしまうのか、という点だ。

生産で日常的に薬剤を用いる側からしたら、これはノーでなければならない問題だが、単にテシオ理論を使う側からしたら、「母体がいつ正常に戻るかわからない」「翌年以降もサイクルは乱れたままなのでは」という疑問が残るのも当然だろうと思う。

しかしこのところ人間界でも「女性の生理」について、もっと男性が理解を深めなければならない流れになってきた。その中のひとつに「ピルの功罪」というトピックがある。

ピルは女性の月経周期をコントロールしている女性ホルモン〜卵胞ホルモンと黄体ホルモン〜の複合体物質だ。この卵胞と黄体というワードはこれから馬でもよく出てくるので覚えておいてほしいが、女性はこの2つのホルモンの制御で月経のリズムをコントロールしている。

ピルは人間の女性に対して直接「排卵を起こさない」作用があるなど、妊娠しにくい体にするほか、「副効用」といって女性のQOL(クオリティオブライフ)を高めるいくつかのよい副次的効果もあり、今はそちらを目的に服用するケースもある。

しかしこのピルを飲むことで、人間の女性の体、とくに生殖活動系が「将来にわたって修復不可能なダメージを負うのか」というと、まったくそんなことはない。服用を止めるとまた月経が戻り、妊娠もできるし、赤ちゃんへの先天異常が増えることもない。

実はいくつかの名馬の生い立ちを調べていくうちに、サラブレッドではもっと劇的に早くホルモンのバランスが回復して、元の状態に戻る、つまり自然なサイクルでの妊娠が可能になることがわかってきた。要するに「薬剤①(不受胎)→自然②受胎」のようなケースである。(繁殖期がある動物だから当然だけど)

人間とサラブレッドの間には、そう簡単に割り切れない分類上の違いもある。だがサラブレッドは人間よりなお「繁殖活動に適した受胎システム」を持っており、その緻密さなり復元性は、私たちの想像のはるか上をいく(胎盤の話ひとつ取っても)。たとえ薬剤を用いても、その使用法を間違えなければ、馬体への影響は最小限に抑えられるのである。

自然、自然というけれど

一方で薬剤を用いない自然生産法がまだあったとして、それが果たして理想的なのかという意見もある。

馬に対して一番自然な繁殖生活は、オスとメスが同じ柵の中にいて、いつか2頭が交わり、メスのお腹が大きくなるという方法だろう。この理想からいったい何歩引き下がったところに現代の生産があるかを考えれば、今自分たちが「自然、自然」と探しているサイクルでさえ、あるいはテシオ理論が喜ぶ「自然のサイクル」でさえ、そんなに褒められたものではない。

JRAの動画を見ても分かるとおり、自然による種付けならなおさら、馬の受胎率自体がさほどでないと知れているので、どうしても1年に1頭の仔馬がほしければ複数回の種付けも考えなくてもならない。

実はこの種付け行為自体が母体を痛める要因になっているのだ。詳しくは省略するが、自然なら何回種付けしてもいいわけじゃないし、薬剤を用いても、自然でも、初回発情でも、すべての生産活動は

母馬の状態が最優先で事を進めている

どんな理論でもかまわないが、ここを忘れたらその瞬間に現場の実情とはほど遠いお遊びの理論になる。自然なら万事歓迎とか、そんなことはあり得ない。

馬に対する薬剤使用には「行為そのものを減らし母馬の負担を減らす」効果も期待できる。人間のピルはまた反対の意味で「女性の負担を減らす」し、そのどちらにもホルモンが関与していて、事後は可逆的に回復できるということだ。

毎回の記事でつらつら話すのもまどろっこしいので、今私が考えていることを1回にまとめさせてもらった。せっかく与えられた事実から、少し新しいことを探ろうとしているのだから、より自由な発想で事に当たりたい。そのためには前提としてきちんとこんなことをおさえていますよ、という表明になる。

さて次回からいよいよ薬剤の話をしていこう。

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