※これは1月15日YouTube動画の台本原稿です。
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こんにちは、ドルメロチャンネルです。
さて今回は、先頃来日した特別な種牡馬パールシークレットについて、私なりの評価とご覧になっている方にご理解願いたいもうひとつの活用法についてお話ししたいと思います。
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このチャンネルの視聴者さんならもうご存じかと思いますが、今回の種牡馬パールシークレットはサラブレッド3大始祖のひとつバイアリーターク、つまりはヘロド系の貴重な末裔であるとされています。
もしパールシークレットのような種牡馬からよい後継がでなければ、ヘロド直系の滅亡はいよいよ現実味を帯びてくる。そこでこのたび日本の馬産家たちが彼を日本で繋養し、系統の保存にチャレンジするという、壮大な血統プロジェクトが始まったわけです。
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このプロジェクトの中心人物である大狩部牧場の下村社長は、YouTubeチャンネルを運営されていて、以前から私も視聴していました。
それが昨年末に「重大発表がある」というので、なんだろう、また面白いことを始めたぞと思ったら、まさかの種馬導入というビッグサプライズ。
しかもそれがヘロド系の復活を狙うというロマンしかない企画内容に2度ビックリ。
えっ?社長どうしちゃったんですか! なんて一瞬思いましたが、ご本人はマジメもマジメ、その辺はぜひ当時の発表動画を見てほしいのですが、中でも本職の獣医師のお立場から、非常に興味深い現場の知見を私たちに披露してくれました。
そしてむしろ今の日本こそ、閉塞しがちな血のバラエティを大きく広げるべき時なのだという社長の思いが、いつも私が抱くものと同じだったからこそ、こうしてパールシークレットをご紹介することにしたわけです。
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さてこのチャンネルは、テシオ理論による血統分析が主ですから、パールシークレットの導入をロマンの目で見ることはいたしません。
パールシークレット成功のためには、3つのポイントを検証する必要があります。
ひとつは彼の血統構成
2つ目が彼の果たすべき現実的な役割
そして3つ目が現在の年齢と活性値の推移です。
これをひとつひとつ追うことで、パールシークレットという貴重な資源を最大限活かす道を探ることにしましょう。
(5)(5秒ジングル)
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まず最初は、パールシークレットの血統構成要素です。
ここでいう血統構成とは、
①ヘロド系の継承というワードの意味
②パールシークレットのもつ馬体の形
③スピード発現の助けとなるクロスの存在
この3つを指します。
とくに①のヘロド系の継承の意義に関しては、このパールシークレットそのものがヘロド系の末裔であると言っていいのか、その辺の意見のすりあわせが必要になるのでしょうが、ここではあくまでも私の意見として話を進めていきます。
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こちらがパールシークレットの5代血統表です。
まず1つ目のポイントである、ヘロド系の継承の意味ですが、初めに申し上げると私の中では、このパールシークレットからいかなる大物が出ても、かつその息子が種牡馬になろうとも、それはもはやヘロドの末裔ではないだろう、という結論になります。
それはこの血統表の色を塗っていない直系父系の様子を見ても明らかで、すでに今から60年前にはクラリオン直系が果たすべき種牡馬としての使命、形を遺伝する役割は終わっていると言わざるを得ない。
なぜなら、例えばClarionからKlaironへは遺伝的に優性のまま継承していますが、それ以降は中性またはミニマム期による劣性遺伝ばかりで、むしろ形の継承としてはあなたは終わっていますよ、と何度も念を押された格好になっている。
かつパールシークレットの父Compton Placeに至っては、祖父Indian Ridgeのゼロ活性産駒であろうと推測できるので、もはや遺伝要素すら引き継いでいない。
そのCompton Placeの形は日本にむか〜し導入されたイエローゴツドの影響を受けている始末で、現代の流行形からは外れている。
だからパールシークレットがCompton Placeの優性期産駒であったとしても、そこにヘロドの役割はもうない。むしろイエローゴツドの形が3代始祖のどこに属するのか調べた方が、ドルメロ的には正しい分析とも言える。
よって2番目のパールシークレットの形の評価とは、言い換えればそういうことで、強い父似が発現したときに出てくるのがイエローゴツドあたりの形でいいのかどうか。
50年前の日本ならまだしも、現代の日本で通用する形なのかどうか。
そこで3つ目。じゃあもっとスピードを出そうよと、安全なクロスの活用法を探ると、ひとつだけここにミスワキという候補がある。
ミスワキはMr. Prospectorの直系産駒ですが、欧州においてはUrban Seaという偉大な母を出している。このUrban Seaの父という事実が非常に大きくて、あとあと配合に効いてきます。
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2022年の夏に、私はこんな動画を出しています。
「サラブレッド3大始祖論 エクリプス1強説のうそホント」
初めてここを訪れた方、ここまでの話が難しかった方は、この動画を今からでも見てほしいのですが、この中で私は、サラブレッドの3代始祖にはそれぞれに異なる役割があったと推測しました。
そしてエクリプス全盛の現在もなお、古いヘロドの役割は消えずに脈々と生きている。
バイアリーターク〜ヘロドのラインこそがサラブレッドの「形」の進化を主導してきた張本人であって、たとえ直系ではなく母系の中でも、ヘロドの末裔が遺伝的に優性である限り、その馬が現代にも強い形を遺伝していると考えました。
もしパールシークレットの直父系がこれに該当するのであれば、パールシークレット系保存の意味はがぜん高まるのですが、実はクラリオン直系はすでにその役割を終えていた。
ならばパールシークレットをもっと違う面からみて活用しなければ、このプロジェクトは単なる夢物語で終わってしまう。
じゃあ私たちのなすべきこととは何なのか。
(9)(5秒ジングル)
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ここでの現実的な選択は二つに一つ。
ひとつはあくまで種牡馬として、パールシークレットの形を活かした配合で牡馬の後継を狙う。
もうひとつは、エクリプス系に対するヘロド系の希少性を活かす形で、サラブレッドの精神を刷新する配合を考えることです。
おなじみ中島氏の著書「血とコンプレックス」にも、シェパード犬の繁殖法を例に挙げられていますが、サラブレッドにおいても母父にヘロドやマッチェムの種牡馬を持ってくることで、効果的にサラブレッドの野性味と賢さを取り戻すとされています。
私としてはむしろ、このヘロド系種牡馬を一代雑種と考えた次世代の繁殖牝馬つくりの方が、日本の馬産界にとって何倍も価値のあることで、大きな血の転換チャンスであると考えています。
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「血とコンプレックス」には、古い天皇賞馬アイフルのエピソードが書かれています。
ある日アイフルを管理していた仲住先生が
「この馬はやたら利口で、こっちのしたいことをみんな理解している。人間で言うなら彼は秀才なんだ」と中島氏に打ち明けます。
中島氏は「ああ彼はアウトブリードだし、母父のリンボーが効いている。だから頭がいいんだろ」と即答します。
するとさらに仲住師から
「生産者の佐藤さんは、シェパードの繁殖も名人なんだって。この馬にも同じ理論を試したらしいよ」と教えられ、中島氏はいたく感心したというのです。
その理論をアイフルで説明すると、まずBoojieという牝馬にマッチェム系のWar Admiralを交配し、マッチェムの一代雑種(F1)オスを作ります。それが母父リンボーです。
このリンボーを種馬とし、祖母ミスズクインと交配し、メスを生産します。それが母グリンロッチであり、そこへエクリプス系のセダンを交配しても、純粋交配続きで疲弊したサラブレッドの脳=精神が洗浄され、アイフルは野生を取り戻すというのです。
シェパードの繁殖ではこの母父を作ることからスタートしますが、馬の生産においては今回パールシークレットの存在そのものがリンボーと同じ役割を果たします。
つまりパールシークレットの牝馬産駒からは、アイフルのような野性味あふれる賢い子が誕生する可能性が高くなるということです。
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馬が賢いというか、とにかく自分を一番だと考え、無類のいたずら好きだった絶対君主、オルフェーヴルやゴールドシップに共通する母父メジロマックイーンも、この一代雑種母父として効いた配合でしょう。やはりあの名馬たちの振る舞いは、賢いがゆえの所作だったのです。
今回のパールシークレット導入でぜひ忘れないで欲しいことのひとつが、結果として生まれた牝馬産駒にこそ無限の可能性がある点です。
牡馬の産駒が生き残る道は果てしなく遠いものですが、牝馬は今後10年以上健康な精神の子を産む土壌として長く機能してくれるはず。これがパールシークレット導入の、現実的でしかも最も大きな役割だと私は考えます。
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さて3つめのポイントは、パールシークレットの年齢と活性値の推移です。
実はこの動画を作ろうと思ったもうひとつの理由、それがこの25年春にパールシークレットが16歳のMAX活性期を迎えるという奇跡です。
彼にとって25年春は、どの年よりも貴重な時間です。
種牡馬としての役割を期待する方々にとっては、このMAX活性こそ望みうる最大のチャンスとなるでしょうし、もうひとつ注意することは、MAX活性のあとには必ずゼロ活性が訪れること。
先ほどの牝馬産駒の話にとっては、ゼロ活性こそその後の子孫たちの精神弊害をさらに軽くする千載一遇のチャンスであると言えるのです。
もしこのふたつを取り違えるとプロジェクトは全く逆の結果に終わりかねませんので、早速その時期的なお話をしていきます。
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これは25年春、パールシークレットに訪れる活性値変化の予想図です。
パールシークレットは海外産馬なので、正確な種付け日はわかりません。
よって今後はあくまでも予想にはなりますが、彼の誕生日から推測すると、彼の種付け日は予定日ズレなしなら4月25日、予定日ズレ10日なら4月15日あたりになります。
もし種付け日が4月15日であれば、MAX活性期は今年の4月15日からの4週間が最も強く、5月13日頃まで続きます。そしてゼロ活性は5月14日頃から始まるだろうと。
種付け日が4月25日であれば、MAX活性期は今年の5月23日頃まで、ゼロ活性は5月24日頃から始まる。
つまり25年の春は相当の間、彼のMAX活性期にあたるので、
①26年産駒はかなりの割合で父似の馬に出る
②ゼロ活性を企画するなら、5月末からの種付けでも十分間に合う
このあたりに留意したいところ。
よってやや遅くはなりますが6月以降の種付けにも面白い効果がありますので、熟慮の上ぜひチャレンジして欲しいところです。
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最後に、私が推すパールシークレット牝馬の将来的な配合例を一つ示しておきます。
それがミスワキのクロスを弊害無しで活かす方法です。
前述したようにミスワキは欧州ではUrban Seaの父として有名で、しかもGalileoにしろSea The Starsにしろ、その母Urban Sea自体がゼロ活性なので、このミスワキだけはいつクロスしても弊害がありません。
少し前までは日本でこのミスワキを活かす配合が難しかったのですが、最近ではフランケル直系の種牡馬などが導入されはじめ、わずかに可能性が出てきました。
たとえばこのフクム。彼はSea The Stars経由でミスワキクロスが安全に成立し、かつAhonooraのクロスも弊害がありません。
欧州系配合を日本で走らせるためには、スピード増強用に無害のクロスが有効で、他にもモズアスコット、アダイヤーでも同様の配合が望めます。
なおかつ母系からサンデー系の形でも拾えれば、バランスよく適材適所で要素を使いながら、精神面の安定したよい子が出るのではないでしょうか。
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種牡馬パールシークレットの評価動画、いかがだったでしょうか。
今回の日本導入、一見ロマンしかない空想プロジェクトに見えますが、牝馬を含めた現実的な路線で考えていけば、この先10年、20年と健康な精神のサラブレッド生産に大きく貢献できるイベントだと思います。
もちろん私も牡馬の強い馬が日本で出てほしいと願っていますが、実際産駒の半分は牝馬でしょうから、ぜひその牝馬たちにも目を向けた活動であってほしくて、このような動画を作りました。
彼には少しでも長く活動してもらい、多くのチャンスに恵まれることを期待します。
今回の動画はここまでです。
ご視聴ありがとうございました。