名繁殖エリモピクシーの血を引く最後の女系
エリモファミリーの繁栄ぶりは、ファミリーテーブルを見ているだけでゾクゾクするような凄みがあるが、栄枯盛衰とはよく言ったもので、そのえりも牧場も現在はすでに消滅している。
今回紹介する母エリモピクシー(生産は新冠・川上悦夫氏)もその後人手に渡り(繁殖セールでは個人馬主さんに?)、というかレッドオルガはノーザンファーム出身なので…今はまあそういうことになる。
以来、エリモピクシーにはディープインパクトがバンバンつけられ、バンバン走ったわけで、レッドオルガに至るまで4年連続で全きょうだいが誕生している。
今回はその全きょうだいを中心に比較検討し、OPに上がってきたばかりのレッドオルガについて真の適性を探ってみたいと思う。
繁殖としてはシックの上を行く、という募集コメントだが…
【 エリモピクシー一族の繁殖サイクル 】
Bourtai 1942
Bayou 54.4.1 3.15〜5.15
Batteur 60.3.2 ぐ○ 2.16〜4.16
デプス 70.4.15 ぐ(○) 3.29〜5.29
デプグリーフ 74.4.11 ぐ○ 3.25〜5.25
エリモシユーテング 84.3.11 ぐ○ 2.25〜4.25
エリモシック 93.3.19 き(×) 3.2〜5.2
エリモピクシー 98.4.6 ぐ(○) 3.20〜5.20
リディル 07.5.8 き×
クラレント 09.3.2 き(×)
レッドアリオン 10.2.28 ぐ○
☆サトノルパン 11.3.7 き(×)
☆レッドアヴァンセ 13.4.24 き×
☆レッドオルガ 14.4.26 ぐ(○)
レッドヴェイロン 15.4.21 き×
全きょうだい☆のうち、12年産のレッドベルダについては非活躍馬(未勝利)として除いてある。
というか、きょうだいで勝ち上がれなかったのはそのベルダくらいで、毎年種付けをすれば仔が走る繁殖なんて、見たことも聞いたこともないレベル。
当然そこにはAll or Nothingの戦略というかカラクリがある訳で、のちほど詳しく述べる。
まず先に母ピクシーについて一言触れておくと、レッドオルガの募集PDFには「…(母エリモピクシーは)母馬としての能力はエリザベス女王杯を勝った全姉エリモシックを上回ります」と明記されている。
繁殖実績だけ見るとこれは紛れもない事実なのだが、配合上でいうと上記のテーブルからもわかるとおり、エリモシックはその母エリモシユーテングの9歳時MAX活性馬(カタカナ大文字はJBISに準拠。東京ホースのカタログ記載はシューティング)であり、シックはそのメリットをより競走のスピードとして活かした牝馬であることがわかる。
エリモ一族は基礎体力に恵まれたファミリーではない。
MAX活性を継承したシックでさえ★41、ピクシーに至っては31という低さで、3歳時からクラシック路線でバシバシ走ったら、4歳ではきっとお釣りが残っていなかっただろうというレベル。
G1を獲ったシックの実働は2年あまりで全17戦、対して3歳時まだ500万下にいたピクシーは、年齢による体力上積みを経て全43戦、7歳の引退直前まで能力を発揮した。
もちろんピクシーの43戦というキャリアも繁殖牝馬としては少し多く、普通はいい仔を出すまでに時間がかかるものだが、それを跳ね返してしまったのがピクシーの本当にスゴいところ。
母からもらった資質を姉は早くから競走で燃やし、妹はコツコツ体を丈夫にして繁殖で燃やした。
よって姉妹比べて…うんぬんという話はちょっと違うと私は思う。
ひー、長くしゃべりすぎた!!
レッドオルガの基礎体力はちょうど50ですよ!(たった一言…。)
エリモ全きょうだいの優先祖先の違い
祖先の基礎体力についてはもう半分ほどお話ししたので、先にきょうだいたちの優先祖先を確定しておこう。
父ディープインパクトの活性値はそれぞれ
☆サトノルパン 8(MAX)+α
☆レッドアヴァンセ 2
☆レッドオルガ 3
母系の父親たちはそれぞれ
母父 ダンシングブレーヴ 6
3代父 テスコボーイ 4
4代父 Vaguely Noble 8(MAX)
よって、兄サトノルパンだけが父似のディープインパクト優先(小柄なスピード馬)、あとの妹たちはVaguely Noble(1965・父ヴィエナ・凱旋門賞勝ちなど)をたどる欧州系であることがわかる。
Vaguely Nobleの父ヴィエナはあのイギリス宰相チャーチルが生産した馬で、決して一流とは言えない競走生活に加え、代表産駒がほぼこのVaguely Nobleただ1頭という不思議な馬。
3年ほど日本でも供用されている。
当時(今も?)欧州の大レースといえば凱旋門賞だったためか、Vaguely Nobleはクラシックの適性ばかりがもてはやされるが、自身はマイル以下でも鬼のように強い馬で、反対に距離二五のサンクルー大賞では3着に負けている。
よってVaguely Nobleが優先であっても、根っからのクラシック適性につながるとはいえず、オリオール系の難しい気性と相まって、産駒は折り合いに苦労するケースもあっただろう。
風のうわさでは、レッドオルガは中山等の右回りを気にする馬だというが、それは欧州系優先の馬が広くてコーナーの緩いコースが得意なことの裏返しであり、もしもっとRの大きな右回りコースがあれば、さして苦にしない可能性もある。
「えりもAll or Nothing作戦」のカラクリ
さてピクシーの仔がこんなに連続して走れるのは、知ってか知らずか、そこに牧場側の戦略があったとかなかったとか…。
もう一度サイクル表を見てみよう。
エリモピクシー 98.4.6 ぐ(○) 3.20〜5.20
リディル 07.5.8 き× (予想)6月8日種付け
クラレント 09.3.2 き(×) 4月2日
レッドアリオン 10.2.28 ぐ○ 3月28日
☆サトノルパン 11.3.7 き(×) 4月7日
☆レッドアヴァンセ 13.4.24 き× 5月24日
☆レッドオルガ 14.4.26 ぐ(○) 5月26日
レッドヴェイロン 15.4.21 き× 5月21日
ピクシーのきょうだいたちは、母の繁殖サイクルの間際ばかりに種付けされていると思われないだろうか。
つまり( )付きのぎり判定馬がとても多いということになる。
もともとピクシーには繁殖の早期(2月〜3月前半)に種付けされた産駒が1頭もいない。
もちろん毎年仔出しがいいので、種付けサイクルを早められないという事情もあるが、長兄のリディルに至っては6月の種付けだし、アヴァンセとオルガももしかしたら6月種付けの仔かもしれない。
今は大手零細問わず、なるべく早く種付けして早生まれの仔を欲しがる生産者が多いと聞く。
しかしそれをやると、ピクシーのような遅生まれの繁殖は、走る仔を出す確率が確実に半減する(隔年でしか良いサイクルに当たらないから)。
幸いにしてピクシーの関係者は「この母には慌てて種を付けることはない」とわかっていたのか、1年たりとも早生まれを作らず、たとえ繁殖サイクルを知らなくても、母の誕生日近辺からいい発情を見ていけば間に合うという暗黙の了解のようなものがあったのかもしれない。
誕生日を参考に繁殖サイクルの間際を(無意識にでも)狙っていければ、ピクシーのように毎年○×サイクルを当てることも可能というわけだ。(反対に全部ペケという可能性も捨てきれないが、生産者は馬の発情を見る以上、全敗はあまり考えられない)
最後におまけとして、( )つきのOK産駒たちは、実はすべて予定日から10日ほど遅く生まれた(はずの)仔ばかり。
あまりにきれいな規則性なので、これはピクシーの妊娠時の癖のようなものではないかと推測できる。
【 結論 】
レッドオルガは母似であるため純粋なマイラーではないが、賞金さえ上積みできれば大箱府中のヴィクトリアマイルで弾ける可能性あり
ただし府中のマイル戦はスプリンターに近い快速牝馬がスピードでかっさらう可能性もあるので、欲を言えば秋の府中牝馬Sなんかが彼女にドンピシャなんでしょうね。