今年4月にキンカメ種付け中止の記事をエントリーしていますが、このほど正式に種牡馬引退が発表されましたので、以下最新版として改めて再構成し後継問題をまとめておきます。
おつかれさま、キンカメよ
長らく日本の馬産界においてNo.2種牡馬の地位に君臨していたキングカメハメハ(牡18・父Kingmambo)が、このほど正式に種牡馬生活から引退すると発表された。
近年の体調不良や年齢を考慮されての措置だが、先のセレクトセール2019でもキンカメ産駒の高額馬が続出するなど、その人気は今もまだ根強いものがあり、ファンに惜しまれながらのリタイアとなる。
さてこうして実際にキンカメが表舞台から去るとなると気になるのが
▼キンカメの正統な後継種牡馬は誰なんだ?
という疑問である。
加えて何をもってキンカメの後継者を名乗れるのかという点については、テシオ理論が「馬の形と優性」をもって父の系譜をたどる理論であることから、今回は
・キンカメ優性期の種牡馬
・かつキンカメの形を継いだ父似の種牡馬
を探しながら、競走で全く底を見せなかったキンカメ自身が内に秘める本当の適性はどの辺にあったのか等も調べてみることにしよう。
キンカメ優性期の種牡馬は驚くほど少ない
キングカメハメハは2001年3月20日生まれだから、自身の活性が確実に半分より上の期間すなわち活性値5以上の優性期は
【 第1期 】07年4月〜10年5月
【 第2期 】15年4月〜18年5月
であり、現在はすでに劣性期入りしている。
このうち第2期の優性期産駒は実質4歳未満とまだ現役馬ばかりで、これからの活躍次第で種牡馬入りが見込まれる未知の存在だから、まずは第1期のキンカメ産駒から見ていこう。
実は皆さんが知っている第1期キンカメ産駒のG1ウィナーは、その半数以上が父の劣性期に種付けされた「父の形を継いでいない」馬である。
後継の本命候補ドゥラメンテに始まり、リオンディーズ、ミッキーロケット、レイデオロ(現役)…これらはすべて遺伝学上父の形を永遠に継ぐことができない(種付けをしても仔にキンカメの形が出てこない)馬たちになる。
では第1期の優性期キンカメ系種牡馬はというと、
ルーラーシップ 07年生
ロードカナロア 08年
ベルシャザール 08年
ホッコータルマエ 09年
ラブリーデイ 10年1月
大まかにこれだけに絞られる。
ところがルーラーシップからホッコータルマエまでの4頭は
ルーラーシップ 祖母ダイナカール〜ガーサント
ロードカナロア 母似 In Reality
ベルシャザール 母似 セクレト
ホッコータルマエ 母似
であり、これまで付けた4代種牡馬の中にキンカメより高い活性を持つものがいるので、やっぱり母似で父の形を継ぐことが許されない種牡馬ばかり。
このうちRカナロアやホッコータルマエなどは、見るからに母似であることがわかる姿をしている。
ただ1頭残ったのはラブリーデイ!
すると第1期の後継候補として残るのは、ラブリーデイただ1頭という結論になる。
▼ラブリーデイ(牡9)
父 キンカメ 活性値8(MAX)
母父 ダンスインザダーク 活性値6
3代父 トニービン 活性値2
4代父 リアルシヤダイ 活性値2
父との活性値の差は2(世代)なので、優先は父キンカメ→祖母マンファス(祖父Kingmamboは活性値2の劣性期なのでさかのぼれない)というルートになる。
祖母マンファスは牝馬であり、馬の形を決定する因子を持っているわけではないが、もしこの祖母が競走馬として適性を示してくれていれば、ラブリーデイの適性予測として十分参考にできる。
しかしマンファスは現役時7戦未勝利の戦績であるから、このように適性の決定に迷う場合は祖母マンファスの優先も調べてみるとよい。
▼祖母マンファス
父 ラストタイクーン 活性値7
母父 Blakeney 活性値8
3代父 Green Dancer 活性値4
4代父 Charlottesville 活性値2
父との活性値差はマイナス1(世代)なので、祖母マンファスもまたラストタイクーンではなく、3代母Pilot Birdが優先の母似産駒であるとわかる。
Pilot Birdは86年の英国サーチャールズクロアメモリアルSという芝10ハロンのリステッドを勝っており、ようやくこのあたりにラブリーデイの適性が出てきたかなと見当が付く。
このようにラブリーデイは父キンカメを通りながら祖先の血を開花させた馬であり、これからも活性値次第で産駒の優先がキンカメそのものになる可能性を秘めた種牡馬である。(自身がキンカメのMAX活性なのは相当心強い)
もし早期リタイアしなければキンカメはどんな活躍をしたのか
ではもう一歩踏み込んで、キンカメ自身はどんな適性をもった競走馬で、完成形はどんな姿になっていたのだろうか。
これは言い換えると
▼キンカメ自身が優先となる産駒にはどんな適性が伝わるのか
と同義である。
これまでの引退馬の中にはどうもはっきりキンカメが優先という活躍産駒がいないようなので、こんな簡単な疑問が今までさっぱり解けない大きな謎になっていたというわけだ。
▼キングカメハメハ
父 Kingmambo 活性値2
母父 ラストタイクーン 活性値7
3代父 Blakeney 活性値8
4代父 Green Dancer 活性値4
活性値の差はマイナス6だから遺伝が届く6世代いっぱい母系のBlakeneyをさかのぼると、
マンファス(牝)〜Pilot Bird(牝)〜Blakeney〜Windmill Girl(牝)〜Hornbeam〜Thicket(牝・1947)
ということで、優先の候補はThicketという鹿毛の牝馬になる。
いちおう牝馬なので、参考までにThicket自身の優先を調べるとおそらくはBois Roussel(1935)というけっこう有名な英国ダービー馬にたどり着く。
つまりキンカメの真の適性は
▼欧州系クラシックディスタンス
であり、距離的な不安はまったくなかった馬だということだろう。
もし5代前までならHornbeamという馬にたどり着くが、この馬はさらに英セントレジャーで2着、14FのヨークシャーCを2年連続2着、20FのアスコットゴールドCを2着するなど、どステイヤー中のどステイヤーで、なんなら
▼キンカメは欧州系のバリバリステイヤーである
という結論に立ってもいいくらい。
キンカメが3歳時に変則2冠を狙うことになったとき、鞍上のアンカツさんがのちに「NHKマイルカップさえ勝てればダービーはイケると思った」と述懐していたのは有名な話で、やはり適性がより長いところにあったのは間違いなさそう。
よってキンカメの完成形は広いコースを好むステイヤー一歩手前の欧州クラシック系で、その後継ラブリーデイ産駒から自身は敬遠気味だった春の天皇賞を勝つ馬が現れても、なんら不思議はないことになる。
では第2期の優性期産駒候補をみていこう
次に今も現役バリバリでタイトルを狙っているキンカメ第2期種牡馬候補といえば、こんなところか。
チュウワウィザード 15年生
レイエンダ 15年
ロシュフォール 15年
ランフォザローゼス 16年
ロードグラディオ 16年
しかしこれらの馬たちはそれぞれ
チュウワウィザード 母父デュランダル
レイエンダ 母ラドラーダ〜Sクリスエス
ロシュフォール 母アンブロワーズ〜サドラー
ランフォザローゼス 母ラストグルーヴ〜ディープインパクト
ロードグラディオ 祖母レディミューズ〜カーリアン
という経路で、母似の馬ばかり。
どうりでどの馬からも欧州系ステイヤーの匂いがしてこないわけだ。
そこでもうちょいハードルを下げて候補を探していたところ、いましたよ!
キンカメそのものが優先となるOP馬が!
その馬こそ、クラージュゲリエ(キャロットC)だ。
▼クラージュゲリエ(牡3・池江厩舎)
父 キングカメハメハ 活性値6+α
母父 タニノギムレット 活性値6
3代父 サンデーサイレンス 活性値3
4代父 ヌレイエフ 活性値5
5代父 Sharpen Up 活性値8(MAX)
ぱっと見は母父のタニノギムレットに似ており、優先逆かな?という危惧もあったが、母は5代父のSharpen Up(1969)由来の栗毛マイラーで、これに似ると絶対距離が保たないし、また正確にはギムレット自身が母の種付け時わずかに活性値6に達していないので、本馬は確信のキンカメ似だ。
春のクラシックはバテず伸びずの入着級に終わり、いかにも「ジリだけど絶対下がらない」ステイヤー体質の印象。
洋芝をこなし、京都コースで重賞勝ちと相性がいい。
神戸新聞杯で元気に走って入着でもしたら、いよいよ菊花賞はこれですかね、キャロット会員の皆さん!
【 結論 】キンカメの正統派後継候補は今のところラブリーデイほぼ一択。第2期生らの奮起に期待
ラブリーデイもまた金子オーナーの持ち馬だったことに驚き。
そしてキンカメは究極の母系活用種牡馬だったんですね。
おつかれさまでした。
2回目の動画拝見しました。
初心者に解りやすい作りになっていて
とても勉強になります。
ありがとうございます。
質問なのですが、種牡馬が劣性期だからこそ良さが出るというパターンもあるのでしょうか?
キタサンブラックがそのパターンでしょうか?
ということはそこまで活躍していない種牡馬に関しては劣性期の産駒の方が良いということでしょうか?
また楽しみにしています。
わにさん、動画ご視聴ありがとうございます。
中島国治氏は日本に帰国後、配合師としてアドバイスを続けていましたが、配合師と牧場スタッフの配合の違いは、
「シュフとシェフの違いほど大きい」
と語っています。
つまり料理でいえば「未知の調味料を入れてみて初めて美味しかった」と思うのがシュフであり、一方シェフは「その味を狙って未知の調味料を入れる」くらい天地の差があるということです。
種牡馬が劣性期だったから母の良さが出るのと、母の良さを活かしたいから劣性期の父を使うのとでは、これも意味合い的に天地ほどの差があるのでしょう。
中島国治氏亡き今、残念ながらキタサンブラックの配合もまたシュフの発想だったと思いますし、今の生産界に「良さを出すためにあえて劣性期の父を使えるシェフ」はいないと思います。
ひとつ私たちが気をつけなければいけないのは、活躍していない種牡馬=能力の低い種牡馬ではない、ということです。
中島国治氏も、そしてテシオ氏も、使いたい種牡馬がいなければ3年でも時を待ち、また付けたい種牡馬がいればどんなマイナー種牡馬でも、国内どこへでも牝馬を持っていったそうです。
あの人たちの目には種牡馬の成績より配合のシステムが優先して映ったので、マイナー種牡馬でもいとわず付けたのでしょうね。
シーバードパーク、ハワイアンイメージ、アップセッター、ウインザーノット、ミスタールマン、カミノスミレ、マルマツエース、カミノクレッセ…。
これら当時の中島配合馬に父としてどんな時期の何が付いているか、気になったら見ていただきたいと思います。
きっと目からうろこかもしれません。
配合論そのものについてもきっと動画でお伝えする日が来るでしょう。
お楽しみに。
いつも楽しくブログ拝見させて頂いています。今年からユニオンオーナーズクラブで一口馬主を始め、こちらのブログに辿り着きました。
競馬に関しては昔ゲームで触れたことがある程度の素人ですが、その入口から来ているからか血統には関心があり、テシオ理論についてもっと深く学びたいと思っております。
動画の配信も楽しみにしつつ、また余裕のある時にでもユニオン募集馬の解説よろしくお願いします!
ピーヤさん、初めまして。ご愛読ありがとうございます。
ユニオンOCさんのご紹介遅れてごめんなさいね。
来週からシルクさんの募集が始まると、またしばらく特集記事にかかりっきりになるので、どうしても今週動画を1本作ってみたかったのです。
私もこのブログさえ始めなければ、今頃ないしょで一口馬主やっていたと思います。
先を越された〜道を間違えましたわwww
昔の競馬ゲームと言えば「ダビスタ」でしょうか。
ダビスタでも「父似」と「母似」の概念があったと記憶していますが、あれってどんな条件でしたかねぇ。
な〜んて考えながら、いつもブログを書いているんです。
私も動画投稿の素人ですから、慌てないで、ゆっくり進行することを心がけ、どんな人にもフェデリコ・テシオの知恵を理解してもらえるよう、励みます。これからもよろしくお願いします。
2本目の動画拝見しました。
私に限らず、恐らく一口馬主でこちらのブログを参考にされている方はかなりいらっしゃるのではないでしょうか?
昔からある考え方なのに誤解されたり、間違った解釈のためにあまり活用されていないのであれば、本当にもったいないと感じます。
こちらのブログや動画を通して、たくさんの方々に正しく広まれば良いのですが…
私も他の方に正しく伝えられるようになれるくらい、頑張って勉強します。
昔やっていたゲームはご明察の通り、ダビスタです。スーパーファミコン版でマチカネイワシミズという種牡馬で、とんでもないインブリードの配合をして遊んでいた覚えがあります。それからは離れてしまったので当時は父似や母似の概念は無かったように思いますが、もしかして最近のダビスタはテシオ理論まで実はカバーしていたりするのでしょうか?
3本目の動画も楽しみにしています。
ピーヤさん、動画ご視聴ありがとうございます。
中島国治氏によると、テシオ理論は「外国では生産者の誰もが知る暗黙の了解」だそうです。(まあそこまでとは言わなくても)
なぜ日本では広まらないのか。不思議ですよね。
でもテシオおじさんの故郷、本場欧州では確かに「知っている人がまだいるだろうな」と私も感じます。
今でも凱旋門賞クラスの出走馬になると、配合上にさまざまな仕掛けがなされており、血統表を見るだけで鳥肌が立つ馬もいます。(人間が意図的に配合したとするなら)
豪のウィンクスとか米のゼニヤッタとかもスゴいですよ。
そして皇帝フランケルもその1頭ですが…。
当時ダビスタの初版ファミコン版を新宿のサクラヤで買いました。
その日は学校も行かずにはまり、本当になんてゲームが出てきたんだと小躍りしたのを覚えています。
今の私に近いですね。
テシオ理論はダビスタの「面白い配合」コメにも近いところがあるかもしれません。
私は昔からダビスタは怪しいと思ってましたよw
いつか薗部さんに聞いてみたいな。
よかったらシルクHC特集もご覧ください。
youtubeの動画早速観ました。
丸一日掛かったということで、動画の編集からアップロードまで大変お疲れさまでした。
今までyoutubeにコメントしたことがなく、こちらのブログの方が慣れていますので、こちらにコメントさせてもらいます。
感想ですが、とても見やすかったですよ。
編集も上手でしたし、プロローグとしてとても良かったように思います。
テシオ理論についてどのような経緯があったのかなどの内容もとても興味深かったです。
以前テシオ理論についてネットで調べたことがあったので、中島国治さんの名前は知ってはいました。
私も興味本位で読んでみようかと思ったこともありましたが、動画での忠告通り止めておきます(笑)
「テシオ理論は初心者向きの血統論」
初めて知りましたが、動画で一番印象に残った言葉でした。
私は血統に関してド素人ですし、無知だからこそテシオ理論にここまで興味を持ったのかもしれないですね。
次回も楽しみにしています!
わにさん、感想ありがとうございました。
その昔栗東トラックマンになりかけた競馬狂だった私が言いますが、馬券でも血統でもそうですが、競馬というものは素人さんをバカにしてはいけないと思います。
せっかく入口まで来ていただいたライトな競馬ファンに「種牡馬辞典」や「血統オタク」のようなドロ沼にハマってほしくないから、最初にこの考え方を身につけてほしいと願っています。
そうですか、中島国治氏をご存じでしたか。
案外今でも通じる話題なのかなぁ。
のど飴なめて、次も収録がんばります。
ユニオンの記事を待たれていた方には申し訳ないのですが、動画楽しみにしています!
それにしてもテシオ理論は競馬好きの方に広く知られていないような気がするのですが、どうなのでしょうか?
私はいくつかSNSをしていますが、少なくともテシオ理論を語っている方に出会ったことがありません。
それだけにオリジナリティ溢れる感じがして私は好きです。
わにさん、たった今最初のYouTube動画をアップしてみました。
→ ドルメロの魔術師 ch.
感想などもお寄せください。
そのうちコメント欄は閉鎖するかもしれません。
なにしろマイクしゃべり(緊張で滑舌最悪。撮り直す勇気もなし)も動画編集(ダビンチうんたら使用)も初めてのことで、結局丸々1日つぶしてしまいましたが、俗に言うYouTuberという方のご苦労が少しわかった気がします。
ああ、オヤジになってまでこんな職業になるもんじゃありませんよ。サラリーマン万歳!
テシオ理論がなぜ日の目を見ずに消えてしまったのか、実はそれについてもこの動画で少し話しています。
もしこの理論を聞いたことがあるという人がいたら、その方はかなりのオッサンです。間違いありません。
私はこの動画シリーズを通じて、信じるとか信じないとかいう浅い議論ではなく、ここで一度理論をまとめておくので後の世代の方どうかよろしく、という気持ちをお伝えします。私がオリジナルではありませんので、とにかく損得勘定なしでみなさんに問うてみたいのです。
今日動画投稿者としてレベルが1だけ上がったと思うので、次の動画は近いうち(忘れないうち)に出したいです。
でもクオリティは期待しないでください。とにかく早く伝えたいのです。
活性に関しては難しくて分からない部分が多いのですが、こういう話を聞いているとテシオ理論って面白いなと思います。
遡って姿形が似るだなんてすごいですよね。
私ももっと勉強したいのですが、いかんせん難しくて…
このような記事また楽しみにしています!
わにさん、いつもありがとうございます。
来週シルク会員さんにパンフ発送されるようなので、それまであと1週間ユニオンOCさんの記事でも、と思っていましたが、わにさんのコメを読んで気が変わりました。
今週はブログ量を少し軽くして、最初の動画をつくりたいと思います。
このままでは活性値や優先、MAX活性など、わかっていないと面白くない基本事項がたくさんありすぎますからね。
テシオ理論を面白いと感じてもらえるのは「筋が通っているから」に他なりません。
裏を返せば、初めて日本にテシオ理論が紹介されたときは、さまざまな過ちにより理論が「まゆつば物扱い」されていました。
本を読み込んで1年半以上実証して、ここまで復元した成果をもっと早く皆さんに伝えなければならないのでしょうね。