さて今回もさっそくいただいたご質問にお答えしていこう。なおご質問は聞きたいことをコメント欄に率直に書いていただいて構わないし、以前に解説したことがあっても気にせずどしどし聞いていただきたい。その際どんな時に質問がひらめいたのかなど、詳細な状況があればなお歓迎だ。
今回のご質問の内容は
(1)血統表を調べた際、父〜4代父まですべて劣性期の場合(優先祖先の行き先等は)どのように判定するのか
(2)そのパターンにヴェルトライゼンデは当てはまるのか、それともギリギリ父が優性期と判断するのか
という2点になる。
優性の父を持たない「女系」の活躍馬たち
実は先日過去動画をさらに整理した都合上、ちょうど昨年のホープフルSでヴェルトライゼンデを解説した回を削除してしまった!なんというタイミングの悪さ……よってあの動画をご覧くださいとも言えないので、きちんと最初からご説明したい。
優先祖先の行き先を見るとき、まれに父〜4代父まですべての父祖先が劣性期の場合がある。直近の動画で言えば、ゴドルフィンの種牡馬アメリカンペイトリオットやアドマイヤムーンがそれにあたるし、またグランプリボスなんかもそうだったと記憶している。
このような馬を私はよく「女系」と表現し、父たちの影響がとても少ない母似の馬に分類している。さらに5代前まで見たとき、やっと優先らしい父馬がいることもあれば、5代父以前も劣性続きのことさえある。優先の表現としては(母系・芝)のようなやんわりとしたものにとどめている。
ただこれらの馬の優先祖先がハッキリとはわからなくても、その適性自体は母系のどこかに強く表れている場合が多い。たとえばアドマイヤムーンは日本でも一大ファミリーを築いている3代母ケイティーズの欧芝適性が強いし、アメリカンペイトリオットは4代母Tri Argoが米芝適性を持つから、Aムーンとはまた少し違った芝テイストが感じられる。
しかし同じ劣性期でもわずかに3代父の方が4代父よりも活性が強いな、といった見方はしていない。どちらも劣性は劣性であり、とくに優先祖先の決定は優か劣か、○か×かの二択で考えないと大変なことになってしまう。
ヴェルトライゼンデと父ドリームジャーニーの関係性
さてここでヴェルトライゼンデ親仔のケースを見ていくと、
・ヴェルトライゼンデ
17.2.8生(16.3.1付)
・父ドリームジャーニー
04.2.24生
よってわずかながら父ドリームジャーニー満12歳を過ぎての配合となり、ヴェルトライゼンデは父ドリームジャーニー優先の父似産駒であることがわかる。
質問者さんもお気づきのように、この場合は父の活性値が4をわずかに上回ると考えて、父ドリームジャーニーが優先と結論づけたわけだ。
しかしこのヴェルトライゼンデのように、活性値4=中性期の扱いがいつもうまくいくとは限らない。たとえば今回のケースでも父ドリームジャーニーの誕生日が3月10日だったなら、ヴェルトライゼンデの種付け時は満12歳に9日足らない計算になる。
私はその場合でも、活性値自体は4と判断し、優先を父ドリームジャーニーとする。
活性値4にこだわる理由とその例外
なぜならこの計算を考案したテシオ翁の時代のことを考えてほしいからだ。
当時のテシオ氏はこの活性値計算により「産まれてくるほとんどの仔の形を間違えずに予測していた(奥方マダマ・リディアの言葉)」のだから、当然計算は平易でなければならない。その予想作業に「10万頭掲載の種付けデータベース」が絡むはずがなく、よって中性期の活性値は、種付け日が父の誕生日に達していなくても「4」として計算するのが常だったと思われる。
また「4」を「3」とすることに果たしてどれだけの意味を持たせられるか、という理由もあろう。それだけ深く注意しながら得られるものがわずかであったとしたら、また活性値計算を誰もが使いこなせなくなってしまったら、何というか、もはやテシオ理論ぽさが薄れてしまうかもしれない。
渡された血統配合表の馬名と生まれ年だけを見て、事もなげに「来年は栗毛の仔が生まれる」とつぶやいたであろうテシオ翁のやり方を、現代でも尊重してみたい気がするのである。
ただしいくら懐古主義の私であっても、南半球と北半球の日にち差までは看過できない。たとえばもし父が南半球産馬(キンシャサノキセキなど)で、単純な計算上は活性値4だけれど実際は半年遅れの父の活性値3.5くらいの時期に種付けしている世代は、やはりいったんは活性値4というよりまだ活性値3の劣性期として考えてみたい。
幸いまだそこまで神経を使う配合例に出会ったことはないが、今回のご質問を機に、あらためて活性値4で通したいとき、3に折れるときの確認ができた気がする。また使ってみて気がついたことがあれば、その実例ごとにお答えしていこう。
飼料の違いとサプリメント与えてるのも影響あるかもですね。人間のアスリートも100年まえとは体格違ってますからね。
そう、C型遺伝子は先天性だけど、後天的な因子ももちろん大きいです。
早速の解答、ありがとうございます。
きっかけとしては、馬券購入という事でもありますが、ヴェルトライゼンデとドリームジャーニーとの馬体重の違い、という点が気になったものも理由としてありました。
ご存知のように、父のドリームジャーニーはかなり軽い馬体重で朝日杯や有馬記念を勝ちました。
一方、ヴェルトライゼンデはAJCC時点で500㌔近い馬体重で、良績を挙げてますし、父の遺伝は「形」を継ぐのであれば、馬体重もせめて小柄か大柄か、とまでは継げるのでしょうかね?
いずれにしても、活性値8のMAXorゼロであったり、活性値4の中性期のように、優劣の境目はとても難しいものですね。
改めて記事にまでしていただいてありがとうございます。様々な過去、現代の馬の血統表を眺めるのが改めて楽しくなりました。
馬体の大きさについては同感です。
優先祖先の馬体をどのくらい引き継ぐかについて、私も「もう少し該当の父に似てくれたら」と思う一人です。
テシオ翁の時代と現代との一番大きな違いは、やはり「遺伝子」でしょう。
あの時代よりもさらに筋肉が大きくなるC型遺伝子にスイッチが入っているので、ステイヤーでも大型とか、ドリームジャーニー優先でも500キロ超えとか、体が発達しやすいのかもしれません。この辺はこのあとの中級編解説動画で少しふれたいと思っています。