▼ではワグネリアンらは種牡馬として活躍産駒を輩出しただろうか 質問にお答えして 1.25

うまい答えにはならないかもしれないけれど

前回のブログにタイトルのようなご質問が寄せられたので、動画制作で少し遅くなってしまったが、いつものとおり答えにもならない私の考えをまとめておこうと思う。

ご質問の内容は、以下のとおり。

『ワグネリアン、ペルシアンナイト、ブラストワンピースがもし種牡馬になったら活躍産駒が誕生したと考えるか。これまでのドルメロ理論を学んでいると、どうもディープ系、Danzig系は血が飽和しているので、ボス性に劣るように思えるのだが…』

質問は一文にまとめられているが、お答えする立場からすると、この質問にはいろいろな意味が含まれている。ひとつひとつ順を追って私の考えを記していく。なお想像に任せるしかない答えなので、一部には突拍子もないコメントも含まれようが、そこは笑って流していただければ幸いだ。

種牡馬としての立ち位置はかなり厳しい

まずこの3頭が種牡馬になったとして、その血統的立ち位置、また生産者に向けたアピールポイントにしても、おかれた環境は至極厳しいものとなったはずだ。

前回もお話ししたとおり、この3頭はいわば「競走馬として完成した締めの配合」である。ワグネリアンは「金子配合の集大成」、ブラストワンピースは古い方から順に「Northern Dancer、サンデー、キンカメ、ハービンジャー」、ペルシアンナイトも「ニジンスキー、ヌレイエフ、サンデー、ハービンジャー」という配合だから、ほぼどの繁殖ともクロスが生じやすいし、また配合そのものに主張がない「マンネリニッポン配合」になりやすい。

しばしば私は実際の繁殖牝馬の淘汰にもコメントを求められることがあるが、その答えも同様だ。繁殖牝馬が競走馬として4系統を使い果たしているような、しかもサンデー、カナロア活性等ががむき出しになって生きている繁殖は、配合としても牝系としても活かす名案が浮かばないと思われるので、正直に「繁殖牝馬としてはつまらないかも」とお答えしている。

種牡馬は極端な配合の馬の方が断然使いやすい。配合目的意識がはっきりし、母に足りないピース役(一味唐辛子?)として役立つからだ。今回の3頭は配合父として尖った部分がない(総合調味料?)ので、生産者側としても「使うに使い切れない」ボンヤリした存在だったと思う。今後はこういう競走馬タイプの種牡馬には受難の時代が訪れよう。

だから私は種牡馬になれなかったこと自体にあまり驚きはないけれど、単に「ハービンジャーの後継は出なかったな…」という感傷に浸っていただけなのかもしれない。

ボス性の有無で見るとどうなのか

さて次に血の飽和やボス性という観点でこの3頭を見ていこう。確かに今の日本競馬にディープやダンチヒの血がたくさん存在することは間違いない。かつて中島氏が計算したように「いまサンデー系の占有率が○○%だよ」と誰かにいわれれば、よくぞここまで栄えたものだ、とのんきな感慨にも浸れる。

ただし今後も競馬の世界は、血の飽和=坂道を転げるような激しい廃退、というわけではないだろう。なぜならサラブレッドの血は元々閉じられた少数派の集まりであり、あちらを立てればこちらが立たずの典型的「箱庭」だからだ。

もちろん今後、サンデー系は緩やかな衰退をたどろう。しかしだからといって芝コースが明日から洋芝になるわけでもないし、日本で走る形はあと10年はサンデー系依存なのである。(だから衰退のスピードも一定とは言えるけれど)

かつて中島氏が提唱した「Northern Dancerの飽和現象」は、確かに日本からNorthern Dancer系のG1ウィナーを激減させた。しかしNorthern Dancer系の優駿自体がきれいさっぱり消えたわけではない。

それは「配合によるボス性の復活」があるからだ。

私は常々「中島氏はなぜそんなに日本競馬、生産界に悲観的だったんだろう」と感じている。中島氏が発すべきメッセージは「このままじゃ日本生産界はつぶれる」ではなく、「そんなにNorthern Dancerが好きなら、種馬にNorthern Dancer系しかいないなら、こうやって配合したらどうかな?」とアドバイスすることではなかったのかと。

デインヒル〜ダンシリ〜ハービンジャーの間柄を見ればすぐに感じるものがあったろうし、フランケル出現時なんて、いの一番に「あれは劣性期が生んだ歴史的名馬じゃ〜」と叫んでくれたに違いないのだ。

もとい、Northern Dancerの飽和度でいえば、欧州は日本の比ではない。まあ欧州に閉じこもっているだけならそれもよし、じゃあ世界の潮流に置かれているかといえば、この瞬間もどんどん怪物が生まれているわけで、飽和という視点だけではうまく欧州競馬を語れない気がする。

そこで考えるべきなのが「配合」なのである。ハービンジャーが日本でもある程度走った理由のひとつが、自身がデインヒル系(=Northern Dancerのゼロ系)であること、またそのデインヒルから見ても連続のミニマム活性種付けでデインヒルの影響すら薄くて消滅すること、ここまで徹底した「ネアルコ消し」により、奇跡的な見かけ上のNorthern Dancer系(じゃないけど)復活劇に関与したと思う。デインヒル=Danzigのゼロ活性、が偉すぎるとも言えるね。

怪物フランケルからようやく生まれた2頭の怪物も「Galileoからの連続のミニマム活性種付け」で十分にサドラーズウェルズを薄めた結果であることは、以前にも語ったとおりだ。(したがって2頭はフランケルの後継ではないし、余談だがフランケルの形はきっと将来的には途絶えていくだろうと思う)

だから血の飽和による衰退は間違いないけれど、ある程度数を減らすとまた他方が飽和するのがサラブレッドの常だ。ディープインパクトの後継でお腹いっぱいに見えながら、実はディープの真の後継者から生じる産駒の数は十分少なかったりするので、今度の動画で紹介した真のディープ後継は「将来、数が減ったときに残るディープ系」という考え方でもいいと思う。

ただし本当の意味でボス性があったかは怪しい

もうひとつ、私なりに「ボス性」を違う視点から考えると、「春季=日本の繁殖期にG1を勝てる血か」というポイントも挙げたい。

昨年の春季G1勝ち馬にNorthern Dancer系産駒はシュネルマイスターただ1頭だけ。そのシュネルも形は父Kingmanを継いでいないから、真の後継ではない「アダイヤー、ハリケーンレーン型」である。

ここで主なハービンジャー産駒のG1、重賞勝ち鞍を見ると、

ディアドラ 秋華賞 ナッソーS
ブラストワンピース 有馬記念(AJCC、札幌記念、新潟記念、毎日杯)
ペルシアンナイト マイルCS(アーリントンC)

つまり産駒たちは、春のクラシックシーズンに全然勝っていないのである。(トライアル除き)

もちろん春特有の芝の生えそろった高速馬場が苦手だった?という特性もあるかもしれない。しかしたとえばひとつだけG1勝ち勲章がある種牡馬を見るとき、自身の初G1勝ちが秋にずれ込んでいたら、基本的に私の種牡馬評価は低い。その血統内に「ボス性の欠如」が現れていないか、よく見る必要がある。

この辺が配合で補いきれない「ボス性の欠如」なのかもしれない。

などとあっちの話もこっちの話もしてしまい、取り留めが付かなくなってしまったが、要するに

・ワグネリアンら3頭の存在は惜しいけれど、種牡馬として活躍する可能性はやっぱり低かっただろう

・しかし血が飽和することで、ボス性の欠如は見られても、活躍産駒がぷっつり途絶えるわけではない。衰退は至極緩やかだし、その間衰退速度を緩やかにする技こそ「配合論」(とくに血を薄める配合論)である。これにより一時的にボス性を高めること、トップスターを輩出すること自体はいつの時点でも可能だろう

とまとめておく。

またYouTubeでは次々回あたりにこういう種牡馬に関する動画を出すつもりだ。年始に話したとおり少し本質的な話になるので、中級者向きかとは思うが、今回のような疑問解決も含まれると思うので、ぜひ楽しみにしていてほしい。

▼ではワグネリアンらは種牡馬として活躍産駒を輩出しただろうか 質問にお答えして 1.25」への2件のフィードバック

  1. 遅くなりましたが質問につき、ご回答いただきありがとうございます。
    現代の競争馬、ネアルコ一色の遺伝子と血のコンプレックス、インブリードによる子孫繁栄が成功するのか、気になっていました。
    牛などは遺伝子操作で美味しい肉質になっています。一方、ダンチヒ、サンデーサイレンスの遺伝子が多くなると、牛と同じなのかは永遠の課題なのかもしれません。
    現段階では、サンデーの衰退は緩やか。「0の配合論」が重要なのでしょう。

    1. あまり正面からのお答えになっていなくて申し訳ないです。
      なお「牛」の肉質改良は、サラブレッド以上に「ミオスタチン遺伝子」をいじっているんじゃないかと邪推しています。
      「C型」はムキムキだけどちょっと硬いとか、「T型」は柔らかいけど肉量がないとか……牛はどっちの特性が喜ばれるんでしょうね。

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