▼シゲルピンクダイヤの父が決まっていない 1.21

地味にすごい繁殖ミステリー

まずは本年もブログ「ほぼ毎週競馬ナビ」をよろしくお願いいたします。都合により新年1月23日分動画はございませんので、今回はブログを更新してみました。お付き合いください。

私はこの話題をYouTubeで知ったのだが、第一印象として「大金の掛かったビジネスにしてはどこかお粗末過ぎひん?」という印象が否めない。それは昨年の5月8日のこと、社台スタリオンにて繁殖牝馬シゲルピンクダイヤへ種付けがされたのだが、1回目の種付けにおいてエピファネイアが射精に至らなかったため、急遽モーリスを引っ張り出してきて2回目に付けていた、というのである。

ご存じの通り、冠号「シゲル」でおなじみ森中蕃氏が昨年10月に亡くなったことを受け、その後シゲルピンクダイヤは繁殖牝馬セールに出品されることに。その上場馬PDFに堂々とこれらの顛末が書かれていただけでなく「万一、誕生した産駒の父がエピファネイアと判明した場合は、落札者が種付け料1,100万円(※差額ということ)を開設者に支払う義務を負います」とまで念を押されていたことから、一気にファンたちの話題の的に。

生産地界隈だけなら、すでに今年(ぎり昨年?)一番のニュースじゃないかと騒がれているわけだ。

あぁそういうことかと納得がいく点も

お金うんぬんの面ではなく、まず私が気がついたのは「同日に違う父2頭の種付けって、やっぱりあるんだ…」という点。私が多くのスタッドブックデータを見ている中でも今までに2、3回あったと思うのだが、さすがにその詳細までは知らなかった。確かに記述からは「2回目の○○という馬が本当に受胎した父なんだろうな」と感じられるが、今回の「念押し」によれば、そこには2回目の父の種付け料によっては不足分を後からもらうよ、という慣例が必ずあったことになる。

でもこれ、遺伝子検査の結果次第では(感情的に)なんかややこしいことにならないか? 

残存遺伝という法則

中島氏の著書「血とコンプレックス」をお持ちの方ならご存じかと思うが、著書には馬にも人間にもこれに似たケースがあることが記されている。

婚前に黒人と付き合っていた女性が、その後日本人と結婚し、生まれた子供の肌が黒いことに驚き、浮気を疑われた。しかし遺伝子検査の結果、間違いなく子供は日本人の父と母から生まれたものであると証明された話。またアメリカンダミーの発祥は、牝馬に対して最初にクォーターホースと交配させ、あとからサラブレッドを交配し、生まれてきた仔がどちらに似ているかで登録を変えた、というのだから、ここにも2回の種付けというカラクリが潜んでいる。

つまり2回の種付けを受けた以降の繁殖牝馬はびっくり箱、思いもかけない可能性が飛び出てくるのだろう。射精無しならオールセーフなんて、人間の男性なら経験的に誰も信じないだろうし(気持ちよくなったらもう出てるよね)、ということは今回のシゲルピンクダイヤにも通常はエピファネイアの精子が落ちているはず。それが仔馬の生体まで形作るかどうかはわからないが、少なくとも容姿だけエピファネイアに似て、体としてはモーリスの遺伝子が作用した「色の黒い日本人」みたいな仔が生まれる可能性はある。

あるいはエピファネイアがもっと遺伝子検査に引っかかるレベルまで影響していれば、モーリスのダメ押しは要らなかった? そう生産者側に「残存遺伝」の知識(というより決断)があれば、残念ではあるが1回目で引き返す手もあったか…この場合の慣例を私は知らないが、一度引き返して、不受胎確定までエピファネイアの影響度を見守る手もあったのではないかと思うのだ。(まあ、そうはならないよね…)

あとはマネーの世界観で

ここからがマネーの世界に入る話。私なら1回目にエピファネイアを付けている段階で、生物学的にはエピファネイアの影響度が高くなるのだから、以後もエピファネイアの種付け料でよろしく、の方が納得がいく。大なり小なりエピファネイアの影響からは逃れられないとわかっているのだし。反対に大金が掛かる世界では「手ぶらじゃ帰れない!」の気持ちになるのもわかる。よりによって「射精せず」はオーナーに対しても印象が悪いし、何でもいいから元気なのを付けてよ、と言いたくもなる。だってこっちには手落ちがないんだし。

生産がマネーの世界なのか、科学の世界なのか、その一点でこのシゲルピンクダイヤ事件の顛末は変わる。私は科学的に結論を出したいし、またスタリオンも「エピファネイアの影響がある」とわかっているから種付け料の義務に言及するわけだ。今回の場合だと、モーリスの種付け料のみで事が済む、というのが一番非科学的で、マネーの世界っぽい幕引きだな、私ならそう感じる。一瞬反対に見えるけどね。

ということで今回の事件、結局は種付け料の差額を払い、産駒はエピファネイアの仔として登録され、シゲルピンクダイヤは今年から無事新オーナーの元へ、というのが結末ではないかとにらんでいる。またそれを許容できる懐の深い方へ譲られて欲しいものだと思う。皆さんのご意見もお聞かせください。

▼シゲルピンクダイヤの父が決まっていない 1.21」への6件のフィードバック

  1. 人間だと我慢汁にも精子は含まれるので外で出すは意味がありません。馬はどうなんでしょ。
    EXP(父親の遺伝がそのまま伝わる)についてお伺いしたいのですが「血とコンプレックス」に書いてある以外でも起こり得るのでしょうか?個人的に出資しているエルデスペラード号、ストームトウショウ2021は優先祖先の形質ではなく父親そのままのように見えます。他でも希に優先祖先とは違う馬がいます。

    1. 残念ながらEX.Pについては著書以上の所見を持っていません。
      というか、気がつくのも一苦労、配合するのは至難の業なので、いまのところは「そっ閉じ」状態です。
      昔の優先祖先の姿をどの程度引き継ぐのかは、ミオスタチン遺伝子がバッチリ合っているかの影響の方が大きいかも知れません。
      いつでも父似になるすごみはありますけどね。

  2. ドルメロさん、お疲れ様です。
    題目とは全く違う話で恐縮ですが、ワタシ本日が誕生日でして、ハイエスティームも勝ち中央での初口取りも達成できました!
    まさに盆と正月が一緒に来たようですが、この話みたいにハイエスティームの種がディープじゃなかったら…なんて考えるとゾッとしますね。
    幸い彼女は、距離延長で結果を出してるんで、中長距離を目指して頑張ってもらおうと思います!

    1. あああーーーっ、2着がシルクのイルチルコだぁーー!!
      今日はイルチルコちゃんの日だと思ったんですけどね。
      イルチルコはこの年のドルメロ・フォトジェニック賞の仔でして、定期的に応援しているんです。
      これは正真正銘の一変、ってやつですか?すごっ!
      お母さんの真のMAX活性クサい時期に種付けされているけど、遺伝子的にはT型遺伝子を継いでいるのかも。
      おめでとうございます。

  3. そのお話以前にもされていましたよね。
    面白いお話だったのでよく覚えています。
    いつだったかなと思って調べてみたら2018年に書かれた記事でした。(思ってたよりも昔でした)

    同日のダブル種付けについては去年スタッドブックの種付け情報が更新された時に気がついたのですが、それぞれ違う種馬で種付けされているのを見て「何かアクシデントがあったんだろうな」とは思ってました。
    ほとんど見ないのでレアケースといってもいいですよね。
    というかそもそも最初の種馬が駄目だったからじゃあ次はこっちといきなりチャレンジできるものなんですね。
    配合面とかもそうですし(結構適当?)、色々と都合があるかと思うのですが、そういうお話は生産者さんから詳しく聞いてみたいです。

    1. とくに配合面でこだわりがあるドルメロのような立場だと、1回目失敗で、すごすご帰るしかないんじゃないかと言いたかったんです。
      その日にちも、お相手の父選びも大事なのでね。
      せっかく知り合いになれたので、また生産者さんにも伺ってみます。

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